漢方薬は、自然の恵みを活かして心身のバランスを整えます

漢方薬は、自然の恵みを活かして心身のバランスを整えます 漢方

病院で診断を受けたあとに、「漢方薬」が処方されたという経験をお持ちの方も、今ではたくさんいらっしゃると思います。

漢方薬のほとんどは、2種類以上の生薬が組み合わされて作られています。
生薬とは、植物や動物、鉱物などの薬効成分をもった自然素材を指します。
これらの自然素材を乾燥させたり、粉末状にするなど、加工を施して使用します。

漢方薬はいわば、自然を恵みを凝縮した薬だと言えるのです。

また、漢方薬は、「民間薬」と混同されがちです。
漢方薬は「医学的に認められた薬」であるのに対し、民間薬は「医学的な根拠がないものも含まれ、用法容量などに地域差がある」ことが、大きな違いです。

そして、薬効を持つ生薬を複数組み合わせて作られる漢方薬に対し、民間薬はハーブやドクダミなど、「昔から身体に良いとされてきた」ひとつの素材から作られています。

「漢方」は日本で発展した医学

漢方の書物漢方は「中国の医学」とお考えになる方もたくさんいらっしゃると思います。

実はこの「漢方」、奈良時代に日本に伝わった中国医学を基に、日本の気候や風土のなかで独自に発展を遂げてきた、いわばメイド・イン・ジャパンの医学なのです。

「漢方」の呼び名の由来は、「蘭方」と呼んでいた西洋医学とを区別するために、「『漢(中国)』から伝来した医学」として使われ始めたことにあります。

自然の恵みを活用し、自然治癒力の向上を目指す医学として日本で発展してきた「漢方」ですが、その歴史の中には、断絶の危機もありました。

1800年代後半に、西洋医学を学び国家試験に合格した者のみが医業開業を許される「医師免許制度」が確立されたことで、漢方医学は衰退します。
ところが時代の変化とともに、西洋医学のだけでは解決できない病気が増えてきました。

漢方と西洋医学との違い

時代の変化は、人々のライフスタイルの変化でもあります。
日々進歩する医療も、その時代に合わせた治療法が求められます。
戦時中は特に傷や病原菌などに対する即効性が求められていたため、西洋医学の治療方法が最適とされていました。

しかし、現代では生活習慣病を筆頭に、慢性疾患やストレスなど、複数の要因が複雑に絡み合うことで生じる疾患が増えてきました。
また、疾患を引き起こしている明確な原因が見つからないこともあって、局所的なアプローチを得意とする西洋医学だけでは太刀打ちが難しい時代へと突入したのです。

おもに「対症療法」を中心とした西洋医学に対して東洋医学は、「原因療法」を中心に考えます。

身体の機能全体を整えることが目的の漢方であれば、要因が複数絡み合っていた場合にも、その原因の根本に働きかけることが可能なのです。

西洋薬、漢方薬にもそれぞれ特徴があります。

西洋医学は検査の結果やその数値から治療方針や処方する薬を判断します。
例えば血圧を測ったとき、ある一定の基準値よりも数値が高ければ高血圧と判断され、血圧を下げる薬が処方されます。

これは血糖値やコレステロールなどにも同じことが言えます。
このように西洋薬は、「ひとつの検査結果を基準値まで近づけること」を目的として処方されることが多いと言えるでしょう。

それに対して東洋医学の漢方薬は、複数の薬効成分を組み合わせて作られています。
これにより、複数の症状や原因に対して働きかけることが可能です。
漢方薬は西洋薬とは違い、数値で測ることのできない疾患に対しても力を発揮します。

そのため冷え性や更年期障害、ストレス、不定愁訴というように、西洋医学の観点では病気とみなさない症状にも働きかけることができます。

漢方では「心と身体はひとつ」と考えます。
これを「心身一如(しんしんいちじょ)」と呼び、現代人の抱える悩みを解消するためには最適な治療方法と言えます。

現代においては、さまざまな要因が積み重なることで心のバランスを崩してしまう方が後を絶ちません。
心のバランスを欠くことは、身体にも影響が及ぶことを意味しています。

漢方は複雑に絡み合った原因や症状を身体の中から改善することで心身のバランスを整え、健康的な生活のお手伝いをすることができるのです。

食べ物で身体を整える「薬膳」

夏野菜食べ物は、私たちの身体に大きな影響を与えています。
中でも、食べ物による「温める・冷やす」といった作用を、私たちは無意識のうちに利用しています。

暑い夏にはキュウリやスイカなど、夏野菜を食べる機会が増えると思います。
冷やしたキュウリやスイカは身体の熱をとってくれます。

反対に寒い冬には、カボチャやニンジンといった野菜を口にする機会が増えます。

これらの野菜を、シチューやスープの具材として取り入れる方も多いでしょう。

キュウリにスイカ、ナスやトマトといった夏野菜には身体を冷やす性質があり、これを薬膳では「涼性」「寒性」と言います。
反対に、カボチャに代表される冬が旬の野菜は、身体を温める性質を持っています。
これは「温性」と言って、より温める力の強い唐辛子などは「熱性」に分類されます。

このように、私たちは意識せずともその季節が旬の作物を食べることで体温を調節し、季節に適応する身体へと整えているのです。

また、熱を加えることで特性が変化する食べ物もあります。
例えばダイコンは、そのままでは身体を冷やす「涼性」の野菜ですが、加熱することで温めず冷やさない穏やかな「平性」となります。

漢方で「未病」のケアを

運動する夫婦漢方には、「未病」という考え方があります。「未病」とは、「健康とは言えないけれど、病気でもない状態のこと」を指します。

これは「なんとなく調子が悪いけれど、病院の検査では異常が見られなかった」というような状態です。
この「なんとなく」は、気のせいではありません。
異常を知らせるサインなのです。

心身の異常を知らせるサインに耳を傾けずに、生活の中で無理を重ねてしまう人も少なくありません。

放っておかれた心と身体のひずみはどんどん大きくなります。
その結果、重大な病につながってしまう危険性も考えられるのです。

ここ数年でよく耳にするようになった「生活習慣病」。
これはその名の通り、普段の生活習慣と大きく関係している疾患です。
高血圧や糖尿病といった生活習慣病は自覚症状がないことも多く、脳や血管へのダメージは静かに進行します。
そのためある日突然、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす危険性があるのです。

生活習慣病の中でもここ数十年増加傾向にあるものとして、肥満、高血圧、動脈硬化、ガンが挙げられますが、これらは食生活の欧米化が影響していると考えられています。
ファストフードばかりの偏った食生活や、過度な飲酒は生活習慣病の原因となります。

「未病」の段階でケアすることができれば、命を脅かす生活習慣病を防ぐことができます。
食事や運動、煙草やお酒といった嗜好品との付き合い方、ストレス対策といった面に注目し、「未病」の状態を機敏に察知することで、毎日を健康に過ごしましょう!

その人に適した漢方薬は「証(しょう)」によって決められる

選定する漢方薬は、お一人お一人の「証」によって決められます。

「証を見る」、「証を決定する」といった言い方をしますが、この「証」とは、その方の体質や体力、症状など、心と身体の状態を表したもので、これらを総合的に判断することで、その方だけにぴったり合った漢方薬を導き出すことができるのです。

オーダーメイドのお洋服というものが存在しますが、漢方における「証」は、オーダーメイドのお洋服を作るための型紙に当たります。

お洋服を作るときには、肩幅や胴回り、腕の長さなどを測り、その方だけの型紙を作りますよね。

漢方薬を選定する場合も同様に、体質や体力、疾患の症状など、人によってそれぞれ異なる状態を診ていきます。
その結果から、その方の証が決められ、証にぴったりの漢方薬を選定することができるのです。

ここからは、証を決定するときに使う考え方の「虚実(きょじつ)」や「五行説(ごぎょうせつ)」、「氣(き)・血(けつ)・水(すい)」について解説いたします。

体質は大きく「虚」と「実」に分けられる

お一人お一人によって異なる体質、体力などは、大きくふたつの状態に分けることができます。

虚(きょ):「虚」は不足を意味します。身体の働きが低下している状態で、体力がなく虚弱体質、病気に対する抵抗力の弱い人は「虚証(きょしょう)」とされます。

実(じつ):「虚」に対して「実」は、体力があり疲れにくい人を指します。
エネルギーに満ちていることが理想のように思えますが、エネルギーが有り余るために機械の熱暴走のような状態になってしまうこともあるので、注意が必要です。

五行説から身体の働きを知ることができる

中医学の考え方の基礎となるのは「五行説(ごぎょうせつ)」という考え方です。

自然界は木、火、土、金、水という5つのグループに分けることができ、互いの働きを補ったり、助長したり、反対に抑制することで自然界は成り立っているのだと考えます。

生活に欠かすことができない火は、木を燃やすことで生まれます。
燃えすぎて危険な場合には水をかけて消化するように、火をうまく扱うためには木と水の働きを利用することが大切です。

私たちの身体も、自然界の働きと同じように捉えることができます。

「五臓六腑」という言葉を耳にしたことのある方もいらっしゃると思います。

「五臓」はそれぞれ「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」に分けられ、これらはお互いに作用し合っています。

五臓は互いに支え合い、一方の臓器に元気や栄養を分け与えたり、反対に働きすぎている臓器を抑制したり、自然界の現象と同じようにバランスを取ることで身体全体の機能を調節しているのです。

五臓はそれぞれ、以下の働きを持っています。

肝(かん):血を蓄え、解毒の働きもある。

心(しん):血液を巡らせる。自律神経を調節することで心のバランスを保つ。

脾(ひ) :食べ物の消化と栄養の吸収を行う。

肺(はい):呼吸や免疫機能を整える。

腎(じん):生殖器や内分泌系などの働きを管理する。

氣(き)・血(けつ)・水(すい)のバランスが身体を支えている

漢方では、人間の身体は「氣・血・水」の3要素のバランスを保つことで健康を維持できると考えられています。

そのため「氣・血・水」のいずれかが不足したり、反対に過多になるとバランスを欠くことになり、その結果不調や病気などが現れるのです。

・氣(き)
目には見えない、身体を支えている原動力のこと。

元気や気力、気合いなどの【気】は、漢方の「氣」に由来していると言われています。
氣は「氣・血・水」の中でもっとも重要な役割を担っていて、氣の巡りが悪くなると心身のバランスが乱れてしまいます。

・血(けつ)
主に「血液」を指し、全身を巡ることで身体のさまざまな組織に栄養を与えます。

・水(すい)
身体に必要な潤いや栄養を与える、血液以外の体液を指します。
体温調節や体内の水分量を調整する働きを持ちます。

漢方では「同病異治(どうびょういち)」と言って、同じ病気でも持ち合わせている体質によって症状の現れ方も違うので、治療の進め方も異なります。

病院で診察を受けたとき、同じ病名を言い渡されたお二方がいたとします。

お二方は同じ人間ではないため、それぞれ体質やお身体の状態が異なりますから、たとえ西洋医学の観点では同じ病気だったとしても、漢方での「証」が違えば、異なる漢方薬が選定されるのです。
反対に、病名は異なっても「証」が同じであれば、同じ漢方薬が選定されます。

漢方薬にも副作用はある

漢方薬「漢方薬は自然由来の優しい薬だから、副作用の心配がなくて安全」と思われている方もいらっしゃると思います。

ですが、同じく自然の恵みである野菜や果物などの食品を見ても、一部の方はアレルギー反応を示し、ときには重篤なショック状態を引き起こすのです。

そのため、漢方薬も全ての方が安全に服用できる薬だと言い切ることはできません。

 

たとえば漢方薬だけでなく、食品にも使用されることのある「甘草(かんぞう)」は、摂取量によってはむくみや高血圧などの副作用を引き起こす可能性があります。

最近では、漢方薬もインターネットで手軽に購入できるようになりました。
しかし、摂取量を自己判断したり、他の薬との飲み合わせを考慮しない漢方薬の使用は避けるべきです。
用法を誤ると、人によってはアレルギー反応や発疹といった症状が現れたり、体調を崩してしまう場合もございます。

漢方薬を安心して服用するためには、専門の薬剤師に相談するのが一番です。

漢方薬のご相談は、漢方専門の福神トシモリ薬局へ

福神トシモリ薬局では、その方にとって最適な漢方を選定するため、お一人お一人とのカウンセリングを非常に大切にしています。

専門の薬剤師がカウンセリングを行うことで、体質や原因を見極め、お悩みを改善するためのお手伝いをさせていただきます。

漢方薬で心と身体のバランスを整え、毎日をイキイキと過ごしましょう!

歳森 和明 / 薬剤師 - 国際中医専門員A級

薬剤師、国際中医師、笑顔セミナー認定講師。漢方薬局三代目。おだやかで大人しく見られがちですが、サーフィン、ダイビング、トライアスロンなど身体を動かすことや、食べ歩き・旅行が大好きなアクティブ人間です。SNS(Twitter、Facebook)で漢方や健康情報、勉強会情報を随時発信しています。