知っておきたい妊娠の基礎知識

知っておきたい妊娠の基礎知識 妊活・不妊

結婚をして夫婦生活を続けていれば自然と妊娠できるだろう、その気になればいつでも妊娠できるだろうと考えている方もいらっしゃると思います。
一般に、避妊をしない健康な若い男女が排卵日に合わせて性交を持った場合、約20%の確率で妊娠が成立すると考えられています。
ところが、この確率は、「妊娠できる準備が整っている」という前提条件です。

実際は、ストレスや疲労、睡眠不足、偏った食生活などが原因でホルモンバランスが乱れ、排卵がうまく行われなかったり、着床しづらくなるといった問題を抱えているケースが多く、妊娠確率は20%よりもっと低いと考えられます。
また、年齢と共に卵子の数は減少し、老化していくため、高齢になるほど妊娠の成功は難しいものとなります。

妊娠成立の条件や仕組みが分かれば、妊娠するために必要な準備が分かり、不妊の状態を引き起こす原因を知る手掛かりにもなります。
妊娠のチャンスをより拡げるためにも、妊娠の正しい知識を身につけましょう。

妊娠成立に至るまでの流れ

お腹に手を当てる女性

妊娠とは、卵子が精子と受精をして受精卵となり、子宮内膜に受精卵が着床してから発育をはじめ、妊娠検査で陽性となることをいいます。

排卵から妊娠に至るまでの具体的な流れと仕組みは次のようになります。

 

卵子の排卵

女性の子宮内にある2つの卵巣には、卵子の元となる「原始卵胞」があります。

生理の時期になると脳から命令が送られ、左右どちらかの卵巣の中から原始卵胞が排卵に向けて成長していきます。

そしてその中でも一番成熟した「主席卵胞」の中の1つの卵子だけが卵胞を突き破り、卵巣から飛び出します。
これが排卵です。

排卵された卵子は、卵管の先にある卵管采(らんかんさい)により補足され、卵管膨大部へ移送されます。
排卵後、卵子は24時間以内に受精しなければ死滅してしまいます。

精子の射精

男性の精子は、精巣の中で1日に5,000万~1億個作られています。
精子は、性交により女性の膣内に射精され、子宮頚管→子宮腔内→卵管と進み、卵管膨大部で卵子を待ちます。

1度の性交で射精される精子の数は、数千万~数億個ですが、子宮内を進む過程で約99%は死滅してしまうため、卵管膨大部に到達する頃には精子の数は数十~数百個になっています。

また、精子は、射精直後から受精できるわけではありません。
射精後に受精可能な場所まで到達するのに約1時間、その後約5~6時間かけて子宮や卵管の中で受精能力を獲得します。

精子の寿命は平均24~48時間と言われているので、射精後6~7時間後から1~2日間は受精が可能です。

一方、卵子の寿命は排卵から約12〜14時間程度ですから、排卵が起きる6~7時間前には、精子が卵管膨大部に到着していることが望ましいと言えます。

卵子と精子の受精

排卵された卵子が卵管膨大部に到着すると、精子たちは卵子を取り囲みますが、卵子は「透明帯」と呼ばれる分厚くて固い膜に覆われており、そのままでは受精できません。

精子は、卵子の中に入っていくため、自身の頭部を覆う先体から透明帯を溶かす酵素、ヒアルロニダーゼとアクロシを分泌します。

しかし、一匹の精子が分泌する酵素だけでは、透明帯は突破できないため、何匹もの精子が透明帯にアタックします。

その中で一番早く透明帯を突破した精子の頭部が卵子の原型質膜に到着すると、瞬時に卵子を覆う透明帯の性質が変化し、ほかの精子を受けつけなくなるのです。
これが受精の瞬間です。

受精卵の着床

受精卵は、2分割、4分割、8分割、16分割と細胞分裂をくり返しながら卵管膨大部から子宮へ移動します。
そして、受精から約4~5日後には子宮に辿り着きます。

このころ子宮内膜は、黄体ホルモンの影響で厚くやわらかくなり、受精卵を育てる環境が整います。

細胞分裂を繰り返しながら「胚盤胞」という状態に成長した受精卵は、子宮内膜に根を下ろし、母体としっかり結びつきます。
これを着床といいます。

排卵後から約6~7日程度で着床が始まり、着床完了まではさらに約5日間ほどかかります。
着床が完了すると、細胞が分化を始め、胎盤や胎児の形成が始まります。

妊娠

受精卵が子宮内膜に着床すると、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれるホルモンが分泌され、次の月経や排卵をストップさせます。

妊娠検査薬の反応を調べる際にも、このhCGが分泌されているかどうかを判定します。
hCGは母体となるお母さんの血中に分泌され、卵巣の黄体を刺激し、多量のエストロゲンやプロゲステロンを分泌させます。
エストロゲンは乳房を大きくして授乳に備え、プロゲステロンは全身の筋肉を柔らかくリラックスさせる働きがあります。

産婦人科では、「胎嚢(赤ちゃんを包む袋)」が見え、胎嚢の中に「胎芽(妊娠7週目までの赤ちゃん)」が見え、心拍の確認ができたら、妊娠を確定します。

妊娠を妨げる要因

妊娠成立まで流れを知ると、新たな生命の誕生が奇跡の連続であるということがお分かり頂けると思います。
妊娠のメカニズムは非常に精巧であり、その過程のどこかに問題があると妊娠は難しくなります。
また、不妊の原因はさまざまですが、加齢やストレス、疲労は妊娠を妨げる大きな要因となります。

加齢による卵子の減少と老化

女性は生まれた頃には原始卵胞を約200万個蓄えています。
しかし、月経が始まる思春期には約20~30万個にまで減少し、その後も1回の月経周期に数百から千個減少します。

1個の卵子が排卵するのに

20歳代で約1000個
30歳代で約500個
35歳代で約100個
40歳代で約10個

の選択されうる卵子から選ばれているのです。
残りは閉鎖卵胞となり、消えてなくなってしまいます。

何歳になっても常に作られ続ける精子とは違い、卵子は新しく作られることはないので、年齢と共に減少していくだけとなります。

また、原始卵胞は加齢に伴い老化する細胞です。
原始卵胞が老化すると、卵子が受精しなかったり、染色体異常をもつ卵子が増えてしまい、着床や発育に問題が生じやすくなります。

ただし、卵子の老化は年齢が要因だけではなく、生活環境やストレスが大きく影響します。
つまり、20代の方でも30代の卵巣年齢であったり、40代の方でも30代の卵巣年齢の場合があるということです。

ストレスが妊娠に必要なホルモン分泌を阻害する

ストレスを感じると、脳の視床下部はその状態から身体を守るための対応に追われます。
この視床下部は、生殖ホルモンの分泌を司るところでもあります。
脳がストレスの対応をしていると、生殖ホルモンの分泌は阻害されるため、生殖機能や卵巣機能の働きが低下します。
これにより、月経トラブル、排卵障害や着床障害など様々な不妊の原因を招くことになります。

不妊の原因の半分は男性にありますが、男性不妊もストレスが大きく関係しています。
男性の性機能をコントロールする「テストステロン」と呼ばれる男性ホルモンが、ストレスの影響により分泌量が低下し、精子の質の低下を招くためです。

妊娠が成功するためには、精子の数と運動率のどちらも重要となります。
1度の射精で数千から数億個の精子が出ますが、その9割は子宮に到達する前に死滅します。

卵子に出会うまでにほとんどの精子が死滅するのですから、もともと精子の数が少ない場合は、妊娠が難しくなります。
また、運動率が悪い場合、卵子まで辿り着きにくい、受精・分割がうまくいかないなどが、不妊の原因になります。

卵巣の状態を知るために基礎体温を測りましょう

基礎体温

基礎体温は、身体の状態や排卵日などの卵巣の状態を知る指標となります。

また、不妊治療を受ける場合、基礎体温を見ながら治療を進めますので、妊娠を望む方は基礎体温を毎日測りましょう。

 

そもそも基礎体温って?

基礎体温とは、人間が生きていく上で必要最低限のエネルギーを使っているときの体温です。
朝目覚めた直後は、身体が一番安静な状態にあり、基礎代謝だけが反映された体温となります。
これが基礎体温で、一般的な体温とは異なります。

基礎体温の測り方

・基礎体温計を準備する
・毎朝一定の時間に測る
・身体を動かす前に測る
・検温位置は舌の裏

基礎体温を測る場合は、小数点以下2桁まで測れる基礎体温計が必要です。
小数点以下1桁までしか表示できない通常の体温計では、正確に記録することができないからです。

基礎体温は、なるべく毎朝同じ時間に測るのがベストですが、何よりも続けることが重要です。
毎日、朝目覚めたら身体を動かす前に測ることを意識しましょう。

また測る際は、舌の裏に当て空気が入らないように口を軽く閉じて測ります。

基礎体温は排卵を境に低温期と高温期の二相に分かれます

生殖年齢の女性の基礎体温は、低温期と高温期の二相に分かれます。
これは、排卵があるからなんです。

排卵が起こると、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるのですが、この黄体ホルモンには、体温を上昇させる働きがあります。

そのため、排卵後の女性の基礎体温は高くなります。
高温期が低温期より0.3~0.5℃くらい高くなるのが通常の基礎体温の変化になります。

黄体ホルモンの分泌量は約2週間ほどで少なくなり、体温が下がって低温期となります。
そして、着床が無かった子宮内膜は子宮から排出されるため生理になります。

基礎体温表のグラフから分かる身体のサイン

基礎体温表のグラフからはホルモンバランスの乱れや排卵の有無など様々な情報を得ることができます。
具体的に、基礎体温表のグラフからわかる身体の異変を一部ご紹介します。

高温期と低温期に分かれていない

高温期と低温期の区別がはっきりしていなかったり、温度差が0.3℃以下だった場合は、排卵が行われていない可能性があります。

高温期が短い

高温期が短い場合は、黄体ホルモンの働きが低下していて、着床しにくい状態かもしれません。
高温期が10日以上続かない状態でしたら、一度産婦人科で診察してもらいましょう。

高温期が長い

高温期はおよそ14日程度で終わりますが、16日以上続く場合は妊娠している可能性があります。
生理開始予定日を過ぎても生理が始まらない場合は、産婦人科を受診しましょう。

低温期が短い

低温期が10日以下と短い場合は、卵胞を育てる期間が短いということを意味しています。
卵子が十分に育っていない状態で排卵が起きている可能性があり、受精しても成長ができず着床に至らない場合があります。

自分の身体の状態を知り、妊娠できる準備を整えましょう

新たな命を宿し、その命を育むためには、母体となる身体の準備が整っている必要があります。
少しでも早く赤ちゃんを授かりたいという方は、生活環境や食生活などを見直し、基礎体温表をつけることで普段から自分の卵巣の状態を知ることを心がけましょう。

 

歳森 和明 / 薬剤師 - 国際中医専門員A級

薬剤師、国際中医師、笑顔セミナー認定講師。漢方薬局三代目。おだやかで大人しく見られがちですが、サーフィン、ダイビング、トライアスロンなど身体を動かすことや、食べ歩き・旅行が大好きなアクティブ人間です。SNS(Twitter、Facebook)で漢方や健康情報、勉強会情報を随時発信しています。