不妊の原因〜男性不妊〜
「不妊」とは、生殖年齢に達した男女が妊娠を希望し、1年以上避妊することなく夫婦生活を持っているにも関わらず妊娠が成立しない状態を指しています。
その中でも、男性側に妊娠を妨げているなんらかの問題があると考えられる場合を「男性不妊」と言います。
不妊にお悩みの男性は、まずは不妊の原因を探ることが大切です。
男性不妊の原因として考えられる経験がないか、振り返ってみましょう
男性不妊は、以下のような出来事にも起因します。
ご自身の経験で当てはまるものがないか、確認してみましょう。
・39度以上の発熱
精巣は、男性の身体の中でも熱に弱い器官であり、体温よりも2〜3度低い温度が適温とされています。
そのため、おたふく風邪などにより高熱が続くと、精子の数が減ったり、運動率が低下するなど、妊娠の可能性を下げてしまう場合があります。
・性病にかかったことがある
性病によって炎症を起こすと、精索静脈瘤、閉鎖性無精子、膿精子症、逆行性射精などの症状を引き起こす可能性があります。
精索静脈瘤は、精嚢に炎症が起きたることで毛細血管にこぶが生じ、造精機能に影響が及びます。
閉鎖性無精子は、精子の通り道がふさがれてしまっていることにより、射出された精液中に精子が認められない状態です。
膿精子症は、膿のような精子が出る症状です。
精液に膿が混じることで精子の運動率が低下するため、妊娠の妨げとなります。
逆行性射精は、尿道が詰まっているために引き起こされる症状で、射精しても精子が膀胱に逆流してしまう可能性があります。
・睾丸を強く打ったことがある
睾丸を強く打った場合、精巣が損傷する恐れがあります。
精巣は強い衝撃を受けると造精機能低下が低下することがあるので注意が必要です。
・停留精巣、鼠径ヘルニアなどの手術経験
精子無力症に心当たりのある方は、乳児期に停留精巣で手術の経験がないかを確認してみましょう。
停留精巣の手術の経験によって、造精機能が低下している可能性があります。
また、鼠径ヘルニアの手術を行ったことがあるという方も、手術の際に精管に傷がついたり、精子の通り道を塞いでしまうなどしたために、無精子症が引き起こされることがあります。
・ステロイド剤や、精神安定剤を服用している
ステロイド剤や精神安定剤を服用していると、精子の数が減少する可能性があります。
・過度の飲酒
アルコールの過剰摂取も、不妊の原因として考えられます。
アルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドが精巣内で増加し、造精機能を低下させる恐れがあります。
男性不妊の原因となる症状
男性不妊の原因の約9割を占めている「造精機能障害」
「造精機能障害」とは、精巣の異常などにより、精子を生成する機能に問題が生じているため、造精がうまく行われない状態を指します。
一回の射精のうち、精液に含まれる精子の数は数億にも及ぶと言われていますが、その数億の精子も、子宮以前で99%は死滅します。
子宮に到達する頃には数十万個までに減少し、さらに卵子の周囲まで到達することができるのはわずか数十個とされています。
そのため、精子の数が少なかったり、精子の運動率が乏しい場合、卵子との出会いを果たせないため、不妊を引き起こしてしまいます。
「造精機能障害」は以下の症状に分類されます。
・乏精子症
乏精子症とは、精液の中に精子は存在しているが、数が少ないという症状です。
精液中の精子の数は、精液検査によって判断することができます。
正常な精液の基準として、WHOによって以下のような値が定められています。
精子濃度や精子の運動率、精子の形態などを総合的に見て、乏精子症かどうか診断されます。
乏精子症を引き起こす主な原因として、「精索静脈瘤」が挙げられます。
精索静脈瘤とは、精巣および、精巣上体から血液が心臓に戻る静脈にうっ血、逆流が生じ、静脈が拡張してこぶのようになった状態のことを指します。
精索静脈瘤があると、静脈の血液の逆流などが生じ、精巣内での造精機能の低下や、DNAの損傷を招くことが考えられます。
自覚症状としては、左右の陰嚢の状態が違う、長時間座りっぱなしのときに、痛みを感じることなどが挙げられます。
精索静脈瘤は左側の陰嚢にできることが多いとされていて、また、座っている状態はこぶを圧迫するため、長時間座ったままでいると痛みが出てくることがあります。
乏精子症の場合にも、精子の数が基準をわずかに下回る程度であれば、タイミング法などで自然妊娠することが期待できます。
基準を大きく下回る場合には、人工授精や体外受精、顕微授精などの不妊治療が適用されます。
・精子無力症
精子の数は正常と認められるが、精子の運動率が乏しい状態です。
乏精子症と合併して引き起こされているケースもあります。
精子無力症の原因は、ほとんどの場合、先天的なものだと言われていますが、思春期以降のおたふく風邪の罹患など、後天的な原因も考えられます。
男性が思春期を過ぎてからおたふく風邪にかかると、精巣炎になることがあります。
精巣炎を発症すると睾丸が大きく膨れ上がり、その際に造精機能を低下させてしまうことがあります。
・無精子症
精液中に精子の存在が全く認められない状態で、造精機能障害の中でも重い症状です。
無精子症はそれぞれ、精子それ自体は存在しているが、 通り道がふさがれている状態の「閉塞性無精子症」と、精子そのものが作られていない「非閉塞性無精子症」に分けられます。
精子は精巣輸出管、精巣上体管、精管、射精管を通り道としていますが、これらが閉塞される原因として、
・精巣上体という、精子を蓄えて成熟させる器官が炎症を起こす「精巣上体炎」
・淋菌やクラミジアなどの性感染症
・鼠径ヘルニアの手術経験
などが挙げられます。
「閉塞性無精子症」の場合には、手術を行うことによって精子の通り道を確保することが可能です。
「非閉塞性無精子症」は、無精子症全体の約80%を占めるとされ、その原因としては、ホルモンの異常と、精子そのものをつくる精巣の機能の異常と、大きく2タイプに分けられます。
「非閉塞性無精子症」の場合、手術により精巣を切り開くことで精子を見つけ、顕微授精による不妊治療が適応されます。
奇形精子症
精液中の精子の70%が、精子形態に異常を持つという症状です。
通常、精液中の精子すべてが理想の形をしているわけではありません。
頭部が小さかったり、とがっていたり、また、尾部が短かったりと、さまざまな奇形精子を、どんな男性でも保持しています。
しかし、奇形精子はオタマジャクシのような理想の精子の形態とは異なるため、妊娠能力が理想形態のものより低くなります。
奇形精子の割合が全体の7割を超えると、不妊の可能性が高くなります。
精子の「質」の低下も不妊の原因
作物を育てるための種を、どんなに豊かな土地に蒔こうとも、種それ自体に力がないのであれば、芽吹くことはありませんよね。
精子の「質」が低下している場合には、女性側の卵子と出会うまでに至らなかったり、遺伝子が損傷しているという可能性が考えられます。
男性の精子の「質」を低下させる大きな原因として考えられるのは、生活習慣です。
不規則な生活リズムや偏食、運動不足に睡眠不足、過労やストレス、過度な飲酒や喫煙やといった、不摂生な生活が思い当たる、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
交代制シフトに従事する男性の精子の運動率を計測してみると、日中勤務のときには50パーセント以上あったにも関わらず、深夜勤務が続いたときにはわずか15パーセントだった、という例もあります。
子宝を望んでいるのに恵まれないことでお悩みの方は、医療機関で検査を行うだけではなく、ご自身の生活習慣を見直すことで、不妊の状態を改善しましょう。