抑肝散(54)の効果を解説。小児の夜泣きから認知症のイライラまで

抑肝散(54)の効果を解説。小児の夜泣きから認知症のイライラまで 漢方

最近些細なことでイライラしてしまう、小児の夜泣きが激しい、あるいは認知症の家族の介護で精神的に参っているなど、自分や家族の感情の高ぶりに悩んでいませんか。
抑肝散は、このような悩みに用いられる漢方薬です。
この記事では、抑肝散がどのような症状に効果があるのか、副作用のリスクは何かを詳しく解説します。

読み終える頃には、抑肝散を服用すべきかどうかの判断材料が得られるでしょう。

▼この記事でわかること
・ 神経の高ぶりや心身の緊張を和らげる抑肝散の基本的な作用
・ 認知症の興奮や子どもの夜泣き、更年期の不調といった具体的な使用例
・ 胃腸の強さに応じた、類似処方「抑肝散加陳皮半夏」との使い分け
・ 服用前に知っておくべき副作用「偽アルドステロン症」のリスク

抑肝散とは、どのような効果が期待できる漢方薬なの?

抑肝散は、7種類の生薬(当帰、川芎、釣藤鈎、蒼朮、茯苓、柴胡、甘草)から構成される漢方薬です。
古くから子どもの「疳の虫」を鎮める薬として知られていましたが、現在では大人に対しても広く用いられています。

主に神経の高ぶりや筋肉の緊張を和らげる作用を持つ成分が含まれており、心と体の両面から不調を改善する効果が期待できます。

神経の高ぶりを鎮め、イライラや怒りっぽさを和らげる作用

抑肝散は、漢方の考え方における「肝」の機能が過剰に高ぶった状態を鎮める働きがあります。
これにより、精神的な興奮や過敏さを抑え、イライラや怒りっぽさ、焦燥感といった感情の高ぶりを和らげます。
ストレスによって交感神経が優位になり、心身の緊張が続いている状態を落ち着かせる効果が見込めます。

不眠や歯ぎしりなど、無意識な身体の緊張をほぐす作用

精神的な緊張は、無意識のうちに身体にも影響を及ぼします。
抑肝散に含まれる釣藤鈎(チョウトウコウ)などの生薬には、筋肉の痙攣やこわばりを鎮める作用があります。
このため、ストレスによる不眠や浅い睡眠、寝ている間の歯ぎしり、手足の震えといった、身体の過度な緊張からくる症状の緩和にもつながります。

ホルモンバランスの乱れからくる心身の不調を整える作用

抑肝散は、神経を鎮めるだけでなく、栄養分である「血(けつ)」を補う働きも持ち合わせています。
この作用により、ホルモンバランスが乱れやすい更年期の女性や、産後の精神的な不安定さに悩む方にも用いられます。
自律神経失調症に伴うめまいや頭痛、気分の浮き沈みといった、多岐にわたる心身の不調を整えるのに役立ちます。
自律神経の乱れを整える薬については「自律神経を整える薬|市販・漢方・処方薬を薬剤師が解説」で詳しく紹介しています。

具体的にどのような症状や悩みに使われるの?

抑肝散は、神経の高ぶりや筋肉の緊張を和らげる作用から、幅広い年代のさまざまな症状に用いられます。
特に、認知症の周辺症状、子どもの夜泣き、更年期障害に伴う精神的な不調などに対して、その効果が注目されています。
ここでは、具体的な使用例を3つのケースに分けて解説します。

認知症の周辺症状(BPSD)で見られる興奮や攻撃性への効果

認知症の高齢者に見られる、暴言や暴力、徘徊、幻覚、妄想といった症状は「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれ、介護者の大きな負担となります。
抑肝散は、これらのBPSDにおける興奮状態や攻撃性を鎮める効果が報告されており、多くの医療機関で処方されています。
感情のコントロールを助けることで、ご本人と介護者の双方の生活の質を改善する一助となります。
認知症に用いられる漢方については「認知症と漢方:効果や種類、副作用をわかりやすく解説」で詳しく紹介しています。

子どもの夜泣きや癇癪(かんしゃく)を落ち着かせる効果

抑肝散は、もともと小児の神経過敏を鎮める目的で使われてきた歴史があります。
理由がわからずに激しく泣き続ける「夜泣き」や、ささいなことで怒り出す「癇癪(かんしゃく)」、ひきつけといった症状に対して効果的です。
神経質な子どもや、環境の変化に敏感な子どもの精神的な興奮を和らげ、穏やかな状態に導きます。

更年期障害による情緒不安定や気分の落ち込みに対する効果

更年期は、女性ホルモンの減少によって自律神経が乱れ、イライラ、不安感、不眠、気分の落ち込みなど、さまざまな精神症状が現れやすい時期です。
抑肝散は、これらの情緒不安定な状態を改善する目的で用いられます。
神経の高ぶりを鎮めると同時に血を補うことで、心身のバランスを整え、更年期特有の不調を緩和します。

抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は、どう使い分ければいいの?

抑肝散と名前が似ている漢方薬に「抑肝散加陳皮半夏」があります。
この2つの薬はベースとなる構成生薬は同じですが、特定の症状や体質に合わせて使い分けられます。
自分の状態に合った漢方を選ぶことが、効果を最大限に引き出す鍵となります。

体力があり、筋肉の緊張が強い人に向いている抑肝散

抑肝散は、比較的体力があり、怒りっぽく、筋肉が緊張しやすいタイプの人に適しています。
お腹を触ると硬く張っていたり、寝ている間に歯ぎしりをしたりするような、身体的な緊張が強い場合に効果を発揮しやすいとされています。
神経の高ぶりが主な症状である場合に第一選択となります。

胃腸が弱く、食欲不振や吐き気がある人向けの抑肝散加陳皮半夏

抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散に「陳皮(ちんぴ)」と「半夏(はんげ)」という2つの生薬を加えた処方です。
これらは胃腸の働きを助け、吐き気を抑える作用があります。
そのため、もともと胃腸が弱く、食欲不振や吐き気、もたれなどを伴う虚弱体質の人に適しています。

抑肝散では胃に負担がかかる場合にもこちらが選ばれます。
抑肝散加陳皮半夏については「抑肝散加陳皮半夏で自律神経の乱れを整える|胃腸が弱い方向け」で詳しく紹介しています。

自分に合った漢方薬を選ぶための体質の見極め方

漢方薬を選ぶ上で最も重要なのは、個々の体質や症状に合ったものを選ぶことです。
漢方では、その人の体力や抵抗力、症状の現れ方などを総合的に判断する「証」という独自の概念に基づいて処方を決定します。
自己判断は難しいため、医師や薬剤師、登録販売者といった専門家に相談し、自分の体質を見極めてもらうことが不可欠です。
漢方薬の選び方については「リラックスできる漢方薬の選び方|イライラ・不安・不眠を症状別に解説」で詳しく紹介しています。

服用する際に気をつけるべき副作用はある?

「漢方薬は自然由来だから安全」というイメージがあるかもしれませんが、医薬品である以上、副作用のリスクは存在します。
抑肝散も例外ではなく、特に注意すべき副作用として「偽アルドステロン症」が知られています。
事前にリスクを理解し、体調の変化に注意しながら服用することが重要です。

甘草(カンゾウ)の過剰摂取で起こる偽アルドステロン症とは

偽アルドステロン症は、抑肝散の構成成分である甘草に含まれるグリチルリチン酸の作用によって引き起こされる副作用です。
体内のミネラルバランスが崩れ、ナトリウムと水分が溜まりやすくなる一方、カリウムが排出されやすくなります。
その結果、血圧の上昇、むくみ、低カリウム血症といった症状が現れます。

注意したい初期症状としての手足の脱力感やむくみ

偽アルドステロン症の副作用を見逃さないためには、初期症状を知っておくことが大切です。
具体的には、「手足の力が抜け、だるさを感じる(脱力感)」「まぶたや手足が腫れぼったくなる(むくみ)」「筋肉が痛む、こむら返りが起こりやすくなる」「血圧が高くなる」といった変化です。

このような症状が現れた場合は注意が必要です。

服用を中断すべき症状や併用を避けるべき医薬品

前述のような初期症状に気づいた場合は、直ちに抑肝散の服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
また、甘草やその主成分であるグリチルリチン酸を含む他の薬(風邪薬や胃腸薬など)と併用すると、甘草の摂取量が過剰になり副作用のリスクが高まるため注意が必要です。
現在服用中の薬がある場合は、必ず事前に専門家に伝えてください。

抑肝散の効果に関するよくある質問

抑肝散の服用を検討するにあたり、効果の現れ方や眠気の有無、他の精神的な悩みへの適用など、さまざまな疑問が浮かぶかもしれません。
ここでは、抑肝散の効果に関して特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
精神的な不安や睡眠に関する疑問にお答えします。

抑肝散はどのくらいの期間飲み続けると効果を実感できますか?

効果が現れるまでの期間には個人差がありますが、一般的に2週間から1ヶ月程度の服用で何らかの変化が見られることが多いです。
症状が改善しない場合は、薬が体質に合っていない可能性もあるため、処方した医師や薬を選んでもらった薬剤師に相談してください。

抑肝散を飲むと眠気が出ることがあるのでしょうか?

抑肝散の成分に直接的な眠気を引き起こす作用はありません。
しかし、神経の高ぶりや心身の緊張が和らぐことでリラックスし、結果として自然な眠気を感じることがあります。

これは副作用ではなく、薬が効いている兆候と捉えることもできます。
日中の活動に支障が出るほどの眠気を感じる場合は、専門家に相談しましょう。

抑肝散の効果は、うつ病や不安障害にも期待できますか?

抑肝散はうつ病や不安障害の治療を目的とした薬ではありません。
ただし、これらの疾患に伴うイライラ、不眠、焦燥感、不安といった精神症状の緩和に用いられることはあります。
自己判断で服用せず、必ず専門家の指導のもとで適切な服用を受けることが重要です。

まとめ

抑肝散は、神経の高ぶりを鎮め、筋肉の緊張を和らげることで、イライラや不眠、子どもの夜泣き、認知症の周辺症状など、幅広い心身の不調に効果を示す漢方薬です。
胃腸が弱い方向けに調整された抑肝散加陳皮半夏もあり、個々の体質に合わせた選択が可能です。
一方で、甘草による偽アルドステロン症などの副作用もあるため、服用中は体調の変化に注意が必要です。

この薬を安全かつ効果的に使用するためには、医師や薬剤師などの専門家に相談し、自分の症状や体質に合っているかを確認することが大切です。

歳森 三千代
(としもり みちよ)
/ 薬剤師

岡山県岡山市にある不妊・妊活専門の漢方相談薬局 福神トシモリ薬局で、漢方と体質改善による妊活支援・身体づくりを専門とする薬剤師。これまで延べ1,300名以上の妊娠相談実績を持つ(全国からの相談対応あり)。 ブログでは「漢方や健康に関する豆知識」「妊活・不妊のお役立ち情報」「体質に合わせた漢方の使い方」など、専門知識に基づく実践的な情報を発信しています。読者の生活に寄り添い、長年の相談実績をもとに分かりやすく解説することを心がけています。
※掲載内容は一般的な情報であり、効果には個人差があるため、効果を必ずしも証するものではありません。