更年期の酒さ・赤ら顔:漢方の効果的な選び方
漢方
更年期に現れる顔のほてりや赤みは、多くの方が経験する悩みの一つです。
これは「酒さ(しゅさ)」と呼ばれる皮膚の疾患が関係している場合があり、見た目の問題だけでなく、ヒリヒリとした痛みを伴うこともあります。
漢方医学では、このような赤ら顔の症状を、単なる肌トラブルではなく、ホルモンバランスの乱れや自律神経の不調といった体内のアンバランスが原因と考えます。
この記事では、更年期に酒さや赤ら顔が悪化する原因と、漢方を用いた体質からの改善方法、そして日常生活でできるセルフケアについて解説します。
もしかして更年期?酒さによるつらい赤ら顔の悩み
40代を過ぎた頃から、人前に出ると急に顔がカッと熱くなったり、暖房の効いた部屋で赤みがひどくなったりすることはありませんか。
こうした症状は、更年期に悪化しやすい酒さの可能性があります。
酒さは、鼻や頬を中心に赤みやニキビのようなブツブツ、毛細血管の拡張などが慢性的に続く皮膚の病気です。
見た目の変化から、周囲の目が気になって外出が億劫になるなど、精神的な負担も大きくなります。
また、肌の乾燥やヒリヒリ感、かゆみを伴うこともあり、日常生活に支障をきたすつらい悩みです。
更年期に酒さや赤ら顔が悪化する3つの原因
更年期に酒さや赤ら顔が目立つようになるのには、この時期特有の身体の変化が深く関わっています。
女性ホルモンの減少に伴う身体の急激な変化は、皮膚にもさまざまな影響を及ぼします。
特に、ホルモンバランスの乱れによるほてり(ホットフラッシュ)、自律神経の不調による血管のコントロール機能の低下、そして環境の変化からくる精神的なストレスなどが、複雑に絡み合って症状を悪化させます。
これらの更年期症状が、どのようにして顔の赤みにつながるのかを詳しく見ていきましょう。
原因①:ホルモンバランスの乱れによる「ほてり」や「のぼせ」
更年期に入ると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が急激に減少します。
エストロゲンは血管の拡張や収縮をコントロールする自律神経の働きに深く関わっているため、その減少は自律神経のバランスを乱す大きな要因となります。
これにより体温調節がうまくいかなくなり突然上半身がカッと熱くなる「ホットフラッシュ」と呼ばれる、ほてりやのぼせの症状が現れやすくなります。
この時、顔の毛細血管が急激に拡張して血流が増加するため、顔が赤く見えます。
このほてりの症状が頻繁に繰り返されることで、血管が拡張したまま元に戻りにくくなり、酒さの赤みが悪化する一因となります。
原因②:自律神経の乱れが引き起こす血管の拡張
自律神経は、私たちの意思とは関係なく心臓や血管、内臓の働きをコントロールしている重要な神経です。
これには活動時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経があり、両者がバランスを取り合うことで体の機能は正常に保たれています。
自律神経は体温調節や血圧、心拍数など、生命維持に不可欠な機能をコントロールしています。
更年期のホルモンバランスの乱れは、この自律神経のバランスを直接的に乱します。
その結果、血管の収縮と拡張のコントロールが効きにくくなり、特に顔にある毛細血管が拡張しやすくなります。
一度拡張した血管が元に戻らず、常に拡張した状態が続くと、皮膚を通して血液の色が透けて見え、持続的な顔の赤み、いわゆる赤ら顔の状態を引き起こすのです。
原因③:ストレスやイライラ感が症状を悪化させる
更年期は、身体的な変化に加えて、子どもの独立や親の介護など生活環境の変化も重なり、精神的なストレスを感じやすい時期です。
イライラや不安、気分の落ち込みといった感情の波は、自律神経のバランスをさらに乱し、酒さの症状を悪化させる引き金になります。
ストレスを感じると交感神経が優位になり、血管が収縮しますが、その後に副交感神経が優位になると血管が拡張し、かえって赤みやほてりが強まることがあります。
また、漢方では、ストレスによる血の巡りの滞り(瘀血)も肌トラブルの原因と考えられており、血行を改善する作用のある桂枝茯苓丸などが用いられることもあります。
精神的な安定を保つことが、肌の状態を健やかにするためにも重要です。
漢方で考える酒さ・赤ら顔の根本的な原因とは
漢方医学では、酒さや赤ら顔といった皮膚の症状を、身体の内部で起こっている不調和が表面に現れたサインとして捉えます。
西洋医学が症状そのものに焦点を当てるのに対し、漢方はその症状を引き起こしている根本的な原因を探り、体全体のバランスを整えることで改善を目指します。
特に更年期の酒さでは、体内にこもった余分な「熱」と、血(けつ)の巡りが滞る「瘀血(おけつ)」が二大原因と考えられています。
これらの体質的な問題を解決することが、症状の根本治療につながるという考え方です。
体内にこもった余分な「熱」が顔の赤みを引き起こす
漢方における「熱」とは、単に体温が高いことだけを指すのではなく、炎症や充血、ほてり、のぼせといった体の過剰な反応全般を含んだ概念です。
更年期のホルモンバランスの乱れや精神的なストレス、あるいは香辛料の多い食事などによって、体内に余分な熱が生まれることがあります。
この「熱」は上昇する性質があるため、体の上の部分、特にエネルギー消費の多い頭部や顔に集まりやすいと考えられています。
顔に集中した熱は、毛細血管を無理やり押し広げて血流を過剰にし、皮膚に赤みや炎症、ほてりを引き起こします。
これが漢方で考える酒さや赤ら顔のメカニズムの一つであり、酒さの改善には、この過剰な熱を冷ます生薬が用いられます。
血の巡りが滞る「瘀血(おけつ)」が肌の新陳代謝を妨げる
「瘀血」とは、血の流れがスムーズでなくなり、古くなった血液が体内の特定の部分に滞ってしまう状態を指す漢方独自の考え方です。
更年期は、ホルモンバランスの乱れやストレス、運動不足などから瘀血になりやすい時期とされています。
血行が悪くなると、肌細胞に必要な栄養素や酸素が十分に行き届かなくなり、同時に老廃物の排出も滞ります。
その結果、肌の新陳代謝が低下し、シミやくすみ、ニキビなどができやすくなるほか、酒さのような慢性的な炎症も治りにくくなります。
また、滞った血液が熱を持つことで、さらに顔の赤みを助長することもあります。
血の巡りを改善し、瘀血を取り除くことが、健やかな肌を取り戻すためには重要です。
【症状・体質別】更年期の酒さにおすすめの漢方薬
更年期の酒さや赤ら顔の改善において、漢方薬は体質から改善を目指す有効な選択肢の一つです。
ただし、「酒さにはこの薬」という決まった薬はなく、その人の体力や体質、赤みのほかにどのような症状があるかを総合的に判断して、最適な漢方薬を選びます。
漢方ではこの体質判断を「証」と呼びます。
ここでは、更年期の酒さで悩む方によく見られる症状や体質別に、代表的な漢方薬の例を紹介します。
自分に合った漢方薬を見つけるための参考にしてください。
のぼせやイライラが強い方は「加味逍遙散(かみしょうようさん)」
加味逍遙散は、体力が中等度以下で疲れやすく、肩こりや精神不安、イライラ、のぼせといった多様な不定愁訴を抱える方の更年期障害によく用いられる処方です。
精神的なストレスによって乱れた「気」の流れをスムーズにし、血行を促進する作用があります。
また、配合されている山梔子(サンシシ)や薄荷(ハッカ)には、上半身にこもった熱を冷ます働きもあるため、ストレスが引き金となって起こる顔のほてりや赤みを伴う酒さに適しています。
赤みだけでなく、気分の落ち込みや不眠など、複数の精神神経症状に悩まされている場合に選択されることが多い漢方薬です。
顔のほてりや赤みがとくに目立つ方は「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」
黄連解毒湯は、比較的体力があり、のぼせ気味で顔色が赤く、イライラしやすい傾向のある方に適した漢方薬です。
黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)、黄柏(オウバク)、山梔子(サンシシ)という、いずれも体の熱を強力に冷まし、炎症を鎮める「清熱作用」を持つ生薬で構成されています。
そのため、顔の赤みやほてりが特に強く、炎症による熱感やニキビのような発疹を伴う酒さの改善に用いられます。
皮膚のかゆみや鼻血、二日酔いなど、体に熱がこもることで生じるさまざまな症状にも応用されます。
ただし、体を冷やす作用が非常に強いため、胃腸が弱い方や冷え性の方が用いると、食欲不振や下痢などを起こす可能性があり、使用には注意が必要です。
血行不良による肌トラブルには「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」
桂枝茯苓丸は、比較的体力があり、のぼせるのに足は冷えるといった「冷えのぼせ」の症状や、下腹部に圧痛や抵抗感がある方に用いられることが多い漢方薬です。
血の巡りの滞りである「瘀血」を改善する代表的な漢方薬として知られています。
滞った血の流れをスムーズにすることで、体全体の血行を促進し、肌の新陳代謝を正常化させます。
これにより、酒さのような慢性的な炎症が改善される効果が期待できます。
元々は月経不順や月経痛、子宮筋腫といった婦人科系の疾患に広く使われてきた薬ですが、シミやニキビ、しもやけなど、瘀血が関わる皮膚トラブルにも応用される処方です。
ストレスが原因の赤ら顔には「柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)」
柴胡清肝湯は、体力が中等度で、神経質でイライラしやすい方の慢性的な皮膚炎やリンパ節の腫れなどに用いられます。
漢方では、過度なストレスは「肝」の機能を乱し、体内に熱を生じさせると考えます。この処方は、その「肝」にこもった熱を冷まし、気の巡りを整えることで、精神的な緊張を和らげ、炎症を鎮める働きがあります。そのため、感情の起伏によって顔の赤みが悪化するタイプの酒さや、神経の高ぶりからくる不眠などを伴う場合に適しています。特に思春期や青年期のニキビ治療で知られていますが、更年期のストレスによる皮膚症状にも応用されることがあります。
自分に合った漢方薬を正しく選ぶための2つのポイント
漢方薬は、西洋薬のように病名だけで漢方薬が決まるわけではありません。
同じ酒さという症状であっても、その人の体質や体力、付随する症状によって最適な薬は異なります。
そのため、テレビCMやインターネットの情報だけで自己判断してしまうと、期待した効果が得られないばかりか、かえって体調を崩してしまうこともあります。
効果的かつ安全に漢方治療を進めるためには、専門家への相談と、自分の体質(証)を正しく理解することが何よりも重要です。
ポイント①:まずは医師や薬剤師など漢方の専門家に相談する
漢方薬を選ぶ際には、自己判断を避け、必ず漢方に詳しい医師や薬剤師、登録販売者などの専門家に相談することが基本です。
専門家は、問診や腹診、舌診といった漢方独自の方法(四診)を用いて、症状だけでなく、その人の体質や生活習慣まで含めて総合的に状態を把握し、最も適した薬を判断します。
皮膚科や婦人科の中には、漢方治療を積極的に取り入れている医療機関もあり、保険適用の漢方薬を処方してもらえる場合もあります。
また、漢方薬局では、よりきめ細やかな体質相談が可能です。
専門家のアドバイスを受けることで、安心して治療に取り組むことができます。
ポイント②:自分の体質(証)に合ったものを選ぶ
漢方治療の根幹をなすのが、「証」という考え方です。
証とは、その人の体力(虚実)や熱・冷えの状態、病気の原因などを総合的に判断した、いわば体質のタイプのことです。
例えば、同じ赤ら顔でも、体力が充実していてのぼせが強い「実証・熱証」タイプの方と、体力がなく疲れやすく顔色も悪い「虚証・寒証」タイプの方とでは、用いる漢方薬は全く異なります。
証に合わない漢方薬を服用しても効果は期待できず、副作用の原因となることもあります。
専門家は、脈や舌、お腹の状態などを丁寧に診て、その人の証を正確に見極めます。
自分の証を正しく知ることが、適切な漢方薬選びの第一歩となります。
漢方とあわせて実践したい酒さを改善するセルフケア
更年期の酒さの症状を和らげるためには、漢方薬で体の内側からバランスを整えることと同時に、日々の生活習慣を見直すことが欠かせません。
食事やスキンケア、ストレス管理など、普段の生活における少しの工夫が、肌の状態を大きく左右します。
漢方薬による体質改善の効果を最大限に引き出し、症状の悪化を防ぐためにも、これから紹介するセルフケアをぜひ取り入れてみてください。
日々の積み重ねが、健やかな肌への近道となります。
食生活の見直し:香辛料やアルコールなどの刺激物を控える
食事の内容は、酒さの症状に直接的な影響を与えることがあります。
特に、トウガラシなどの香辛料を多く使った辛い料理、熱々のスープや飲み物、そしてアルコール類は、血管を拡張させて血流を増加させる作用があるため、顔の赤みやほてりを顕著に悪化させる要因となります。
症状が強い時期は、これらの刺激物はできるだけ避けるのが賢明です。
また、人によってはチョコレートやチーズ、柑橘類などが悪化因子となる場合もあります。
日々の食事内容と肌の状態を記録し、自分にとっての悪化因子を見つけることも有効です。
一方で、体の余分な熱を冷ますとされるきゅうりや冬瓜などの夏野菜を食事に取り入れるのもよいでしょう。
スキンケア方法の改善:肌への物理的な刺激を避ける
酒さの肌はバリア機能が低下しており、非常に敏感な状態です。
そのため、スキンケアにおいては、肌への物理的な刺激を徹底的に避けることが最も重要になります。
クレンジングや洗顔の際は、ゴシゴシとこする行為は厳禁です。
洗浄力の強すぎる製品は避け、低刺激性の洗顔料をよく泡立てて、泡で汚れを浮かせるように優しく洗います。
すすぎは、熱いお湯ではなく、皮脂を奪いすぎないぬるま湯で行いましょう。
タオルで顔を拭く際も、押さえるようにして水分を吸い取ります。
また、紫外線は炎症を悪化させる最大の要因の一つなので、季節を問わず毎日、低刺激性の日焼け止めを塗る習慣をつけることが大切です。
生活習慣の工夫:ストレスを溜めない環境を整える
精神的なストレスは自律神経のバランスを乱し、血管の拡張や炎症を引き起こして酒さを悪化させます。
更年期は心身ともに不安定になりやすい時期だからこそ、意識的にリラックスする時間を設けることが重要です。
ウォーキングやヨガ、ストレッチといった軽めの運動は、血行を促進し気分転換にもなるためおすすめです。
ただし、汗をかくほどの激しい運動は、ほてりを強めることがあるため注意が必要です。
趣味に没頭する、好きな音楽を聴く、アロマを焚くなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
また、夜更かしを避けて十分な睡眠時間を確保することは、自律神経を整え、肌のターンオーバーを促す上で不可欠です。
漢方薬を服用する前に知っておきたい注意点
漢方薬は、自然由来の生薬から作られているため、西洋薬に比べて体に優しいイメージがありますが、医薬品であることに変わりはありません。
体質に合わなければ効果が出ないばかりか、予期せぬ副作用が現れる可能性もゼロではありません。
また、その効果は穏やかに現れることが多いため、ある程度の期間、継続して服用することが必要になります。
漢方治療を始めるにあたり、安心して続けていくために知っておきたい注意点について説明します。
副作用が起こる可能性について
漢方薬は副作用が少ないとされていますが、体質に合わない場合や特定の生薬に対してアレルギーがある場合には、副作用が起こることがあります。
主な症状としては、胃の不快感や食欲不振、下痢、便秘といった消化器系の症状や、皮膚の発疹やかゆみなどが報告されています。
また、多くの漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)という生薬を長期にわたって服用すると、まれに偽アルドステロン症という状態を引き起こし、手足のむくみや血圧の上昇、脱力感などが現れることがあります。
服用を開始してから何か異変を感じた場合は、すぐに服用を中止し、処方を受けた医師や薬剤師に相談することが重要です。
効果を実感できるまでの期間の目安
漢方薬は、症状を直接抑える対症療法ではなく、症状を引き起こしている根本的な体質を改善することを目的としています。
そのため、効果の現れ方は西洋薬に比べて穏やかで、実感できるまでにある程度の時間を要するのが一般的です。
特に、酒さのような慢性的な皮膚疾患の場合、体質が変化し始めるまでに数週間から数ヶ月かかることも少なくありません。
一般的には、まず2週間から1ヶ月ほど服用を続けてみて、何らかの変化があるかを確認します。
効果が見られない場合でも、自己判断でやめてしまわずに、専門家と相談しながら薬の調整を行うことが大切です。
焦らずじっくりと体と向き合う姿勢が求められます。
まとめ
更年期に現れるつらい酒さや赤ら顔は、女性ホルモンの減少によるほてりや自律神経の乱れ、精神的なストレスなどが複雑に影響し合って悪化します。
漢方医学では、こうした症状を体内にこもった「熱」や血の巡りが滞る「瘀血」が原因と捉え、体質から改善することを目指します。
加味逍遙散や桂枝茯苓丸など、個々の症状や体質に合わせた漢方薬を選ぶことが重要であり、そのためには医師や薬剤師といった専門家への相談が不可欠です。
漢方薬の服用と合わせて、刺激物を控える食生活、肌をこすらないスキンケア、ストレスを溜めない生活習慣を心がけることで、改善効果を高めることができます。
効果を実感するまでには時間がかかることもありますが、自分の体と向き合いながら、根気強く治療を続けることが大切です。
