高血圧と漢方|おすすめの漢方薬と効果的な種類と選び方を解説
漢方
高血圧の治療は、生活習慣の改善と降圧薬による薬物療法が基本ですが、体質から改善を目指す漢方薬も有効な選択肢となり得ます。
漢方薬は、血圧の数値を直接下げるだけでなく、高血圧に伴う肩こり、めまい、イライラといった様々な症状を緩和する効果も期待できます。
この記事では、高血圧の改善に用いられる代表的な漢方薬の種類や、自分に合った漢方薬の選び方、服用する上での注意点について詳しく解説します。
高血圧における漢方薬の役割とは?
高血圧に対する漢方療法は、単に血圧を下げることだけを目的としていません。
漢方では、血圧が上昇する背景には、体内の水分バランスの乱れや血行不良、精神的なストレスといった根本的な体質の乱れがあると考えます。
そのため、漢方薬を用いて体全体のバランスを整えることで、血圧が自然と安定する状態を目指します。
このアプローチにより、高血圧に伴うさまざまな不快な症状の改善にもつながるのが、漢方療法の大きな特徴です。
西洋薬は血圧を直接下げ、漢方薬は体質の改善を目指す
西洋医学で用いられる降圧薬は、血管を拡張させたり、心臓の働きを穏やかにしたりすることで、直接的に血圧を下げる作用を持ちます。
一方、漢方薬は、高血圧の根本原因とされる体内の不調、例えば血行不良を示す「瘀血(おけつ)」や、水分の滞りを指す「水毒(すいどく)」、気の巡りが乱れた「気逆(きぎゃく)」といった状態を改善することを目指します。
体質そのものに働きかけることで、結果的に血圧を安定させるのが漢方のアプローチです。
そのため、高血圧だけでなく、頭痛や肩こり、めまい、イライラといった、高血圧に伴って現れることが多い随伴症状の緩和にも効果が期待できます。
【症状・体質別】高血圧の改善が期待できる漢方薬
漢方では、一人ひとりの体質や体力、症状の現れ方を総合的に評価する「証」に基づいて、最適な薬を選択します。
これを「随証治療」と呼び、同じ高血圧という診断でも、人によって選ばれる漢方薬は異なります。
ここでは、代表的な症状や体質のタイプ別に、高血圧の改善に用いられることが多い漢方薬を紹介します。
自分に近いタイプを知ることで、専門家に相談する際の参考にしてください。
体力があり、肩こりや便秘に悩む方向けの漢方薬
比較的体力があり、がっしりとした体格で、高血圧に加えて肩こりや頭痛、便秘、肥満といった症状を伴う方には、体内の余分な熱や不要物を取り除く作用のある漢方薬が適しています。
代表的な処方としては「大柴胡湯(だいさいことう)」や「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」が挙げられます。
大柴胡湯は、ストレスによるイライラや胸のつかえ感がある場合に用いられることが多く、一方の防風通聖散は、お腹周りに脂肪が多く、便秘がちな方の肥満症の改善にもよく使われます。
これらの漢方薬は、気の巡りや血行を改善し、代謝を促進することで血圧の安定をサポートします。
めまいや頭痛、不眠の症状がある方向けの漢方薬
高血圧に伴って、めまい、ふらつき、慢性的な頭痛、耳鳴り、肩こりなどの症状に悩まされている方には、「釣藤散(ちょうとうさん)」がよく用いられます。
特に、中年期以降で、朝方に頭痛が起こりやすい方や、手足の冷えを感じる方に適しています。
釣藤散は、脳の血管の緊張を和らげて血流を改善し、精神的な興奮を鎮める作用があります。
これにより、頭痛やめまい、不眠、不安といった神経症状を緩和しながら、穏やかに血圧を安定させる効果が期待できます。
脳血管疾患の予防を目的として選択されることもあります。
のぼせやイライラが気になる方向けの漢方薬
顔ののぼせやほてり、イライラ、不眠、動悸など、精神的な興奮や自律神経の乱れが原因で血圧が上昇しやすい方には、体の過剰な熱を冷まし、精神を安定させる漢方薬が適しています。
代表的な漢方薬には「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」があります。
この漢方薬は、特にストレスが多く、赤ら顔で体力がある方に用いられることが多いです。
また、更年期障害に伴う高血圧や精神不安にも効果が期待できます。
自律神経のバランスを整えることで心身の緊張を和らげ、血圧の安定化を図ります。
体が弱く、冷えやむくみを感じる方向けの漢方薬
体力がなく疲れやすい虚弱体質で、胃腸が弱く、手足の冷えやむくみ、顔色の悪さが気になる方の高血圧には、体を温めて血行を促す漢方薬が用いられます。
このタイプに適した代表的な漢方薬が「七物降下湯(しちもつこうかとう)」です。
この漢方薬は、血を補い、血行を改善する生薬で構成されており、特に高齢者や体力の低下した方の高血圧に伴う頭重感や肩こり、耳鳴りなどの症状を和らげます。
体に栄養を与え、根本的な体質を改善しながら、穏やかに血圧を下げる効果が期待できるのが特徴です。
自分に合った漢方薬を見つけるための正しい選び方
高血圧の改善が期待できる漢方薬には多くの種類がありますが、その効果を最大限に引き出すためには、自分の体質や症状に合ったものを選ぶことが何よりも重要です。
漢方薬は、西洋薬とは異なる独自な方法に基づいて選ばれるため、専門的な知識が不可欠となります。ここでは、自分に最適な漢方薬を見つけるための正しい選び方について解説します。
自己判断で選ばず専門家に「証」を診てもらうことが重要
漢方治療の根幹をなすのが「証」という独自の概念です。
これは、その人の体力(実証・虚証)や、病気の原因(気・血・水)などを総合的に判断するもので、同じ高血圧でも「証」が異なれば選択される漢方薬も全く異なります。
最近では市販薬も手軽に入手できますが、自分の「証」を正確に見極めることは専門家でなければ困難です。誤った漢方薬を選ぶと、効果がないばかりか、かえって体調を崩す可能性もあります。したがって、自己判断で選ぶことは避け、必ず漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、診察を通して自分の「証」に合った漢方薬を選んでもらうことが大切です。
漢方薬の相談ができる主な医療機関や薬局
漢方薬の選択や相談は、漢方外来を設置している病院やクリニック、漢方薬局などで受けることができます。
医療機関では、西洋医学的な検査と、漢方独自の「四診(望診・聞診・問診・切診)」を組み合わせて、より多角的な視点から判断してもらえる利点があります。
漢方薬局では、経験豊富な薬剤師が時間をかけて丁寧にカウンセリングを行い、体質や生活習慣に合わせた漢方薬や養生法を提案してくれます。
また、ドラッグストアなどで市販の漢方薬を選ぶ際にも、常駐している薬剤師や登録販売者に相談することで、より自分に合った製品を見つけやすくなります。
医師の処方であれば保険適用で費用を抑えられる
病院やクリニックなどの医療機関で、医師の診断に基づき処方される漢方薬は、原則として健康保険が適用されます。
保険診療で用いられるのは、厚生労働省に承認された医療用漢方製剤で、ツムラやクラシエなどのメーカーが製造するエキス剤が主流です。
保険が適用されることで、薬代の自己負担は1割から3割となり、経済的な負担を軽減しながら治療を続けることができます。
一方で、漢方薬局で選ばれるオーダーメイドの煎じ薬や、牛黄や鹿茸などの動物生薬、ドラッグストアで購入する市販の漢方薬は保険適用外となり、全額自己負担となるため、費用面での違いを理解しておく必要があります。
漢方薬を服用する前に知っておきたい3つの注意点
漢方薬は天然の生薬を原料としているため、体への負担が少なく安全というイメージがありますが、医薬品であることに変わりはありません。
効果を正しく得て、安心して服用を続けるためには、事前に知っておくべき注意点があります。
特に、すでに他の薬を服用している場合や、副作用の可能性、効果が現れるまでの期間については、正しく理解しておくことが大切です。
降圧薬との飲み合わせは医師への確認が必須
すでに西洋医学の降圧薬を服用している方が、漢方薬を併用する場合には、必ず事前に医師や薬剤師に相談してください。
漢方薬の種類によっては、降圧薬と相互作用を起こし、血圧が下がりすぎたり、予期せぬ副作用を招いたりする可能性があります。また、漢方薬の服用によって血圧が安定した場合、降圧薬の量を減らすなどの調整が必要になることもあります。治療方針に関わる重要な判断となるため、自己判断で漢方薬を始めたり、服用中の薬を中止したりすることは絶対に避けるべきです。
体質に合わないと副作用が起こる可能性も
漢方薬は、自分の体質(証)に合っていれば副作用のリスクは低いとされています。
しかし、体質に合わないものを服用すると、食欲不振や胃もたれ、下痢、皮膚の発疹といった症状が現れることがあります。
また、多くの漢方薬に含まれている生薬の「甘草(カンゾウ)」を長期にわたり過剰に摂取すると、「偽アルドステロン症」という副作用を引き起こす可能性があります。
これは、血圧の上昇やむくみ、手足のしびれなどが主な症状です。
複数の漢方薬を併用すると甘草の摂取量が増えやすいため注意が必要です。
服用中に体調の変化を感じたら、すぐに服用を中止し、処方を受けた医師や漢方薬を選んでもらった薬剤師に相談することが重要です。
効果を実感するには数週間から数ヶ月かかる場合がある
漢方薬は、症状を直接抑える西洋薬とは異なり、体質を根本からゆっくりと改善していくことで効果を発揮します。
そのため、効果を実感できるまでにはある程度の時間が必要となるのが一般的です。
薬の種類や個人の体質、症状の程度によって異なりますが、目安として数週間から数ヶ月間の継続的な服用が求められるケースが多くあります。
すぐに効果が出ないからといって自己判断で服用を中止せず、まずはもらってきた期間、指示通りに飲み続けることが大切です。
長期間服用しても改善が見られない場合は、漢方薬が合っていない可能性もあるため、再度専門家に相談しましょう。
まとめ
高血圧の漢方療法において、漢方薬は西洋薬とは異なるアプローチで体質改善を図り、血圧の安定を目指すための有力な選択肢です。
肩こりやめまい、イライラといった高血圧に伴う随伴症状の緩和も期待できる点が大きな特徴です。
しかし、漢方薬の効果を最大限に得るためには、専門家が「証」を正確に見極めた上で、自分に合った漢方薬を選ぶことが不可欠となります。
降圧薬との併用や副作用のリスクも考慮し、服用を始める前には必ず医師や薬剤師に相談することが重要です。
自己判断を避け、専門家の指導のもとで正しく漢方薬を活用し、高血圧の根本的な改善に取り組みましょう。
