芍薬甘草湯は首の痛みに使う?肩こりへの応用も解説
漢方
朝起きたときの急な首の痛みやつらい寝違えは日常生活に大きな支障をきたします。
また、慢性的な肩こりに悩んでいる人も少なくありません。
こうした筋肉の緊張や痛みを和らげる選択肢の一つとして、漢方薬の「芍薬甘草湯」が注目されています。
この記事では、芍薬甘草湯が首の痛みや寝違え、肩こりに対してどのように作用するのか、その効果と理由、さらに服用する際の注意点やセルフケアの方法について詳しく解説します。
芍薬甘草湯とは?急な筋肉のけいれんを鎮める漢方薬
芍薬甘草湯は、芍薬と甘草という2種類の生薬だけで構成された、シンプルな漢方薬です。
その主な働きは、急激に起こる筋肉のけいれんを和らげ、それに伴う痛みを鎮めることです。
この作用から頓服薬として、症状が出たときにすぐに服用されることが多く、筋肉の異常な緊張が原因で起こるさまざまな症状に用いられます。
構成生薬が少ないため、比較的早く効果が現れやすいという特徴も持っています。
芍薬甘草湯が首の痛みや寝違えに選択される理由
寝違えによる首の痛みは、睡眠中の不自然な姿勢などによって首周りの筋肉が異常に緊張し、けいれんを起こしている状態です。
芍薬甘草湯に含まれる芍薬には、筋肉の緊張を緩める鎮痙作用があり、甘草には炎症や痛みを鎮める作用があります。
この2つの生薬が協力し合うことで、硬直した首の筋肉を和らげ、血行を促進して痛みを緩和します。
そのため、急に起こった首の痛みや動きの制限に対して、芍薬甘草湯は効果を発揮することが期待できます。
つらい肩こりの緩和にも芍薬甘草湯は使われる
長時間のデスクワークやスマートフォンの使用などで起こる肩こりも、首の痛みと同様に、肩周りの筋肉が持続的に緊張し、血行が悪くなることが主な原因です。
芍薬甘草湯は、このような筋肉の過度な緊張状態を緩和する働きを持っています。
筋肉の強張りをほぐし、血流を改善することで、肩こりに伴う重だるさや痛みを和らげる効果が期待されます。
急な痛みに限らず、緊張が続くことで起こる慢性的なこりに対しても応用されることがあります。
首の痛み以外にも使える?芍薬甘草湯が適する症状の例
芍薬甘草湯は、筋肉のけいれんを伴う痛み全般に効果が期待できるため、首の痛み以外にも幅広い症状に用いられます。
例えば、スポーツ中や就寝中に起こりやすい「こむら返り」は、この漢方薬が最もよく使われる症状の一つです。
また、内臓の筋肉である平滑筋のけいれんにも作用するため、生理痛や胃腸のけいれんによる腹痛、さらには腰痛など、さまざまな部位の急な痛みに対して応用されています。
足がつった時(こむら返り)
就寝中や運動中に突然起こる足のつり、いわゆる「こむら返り」は、ふくらはぎの筋肉が異常に収縮して激しい痛みを伴う症状です。
芍薬甘草湯は、このような筋肉の急なけいれんを鎮める作用に優れており、こむら返りの特効薬としても知られています。
痛みが起こった際に頓服として服用すると、比較的速やかに筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されます。
また、内臓の筋肉のけいれんにも作用するため、急な胃痛の緩和に用いられることもあります。
生理中のつらい腹痛
生理痛の中には、子宮の筋肉(平滑筋)が過度に収縮することによって引き起こされるものがあります。
芍薬甘草湯は、骨格筋だけでなく平滑筋のけいれんを和らげる作用も持っているため、このような収縮に伴う下腹部の痛みを緩和する効果が期待できます。
痛みを感じたときに服用することで、つらい症状を和らげることができます。
一般的な服用方法として、エキス顆粒の場合、成人では1日に2回から3回、食前または食間に水やぬるま湯で飲むのが基本です。
胃腸のけいれんに伴う痛み
ストレスや冷えなどが原因で胃腸がけいれんし、差し込むような腹痛が起こることがあります。
芍薬甘草湯は、胃や腸の平滑筋の異常な緊張を緩めることで、このようなけいれん性の痛みを鎮めるのに役立ちます。
急な腹痛に対する頓服薬として用いられることが多いです。
ただし、長期間服用すると、甘草の成分によって体に水分が溜まりやすくなり、血圧の上昇やむくみといった副作用が現れる可能性があるため、漫然とした使用は避けるべきです。
そもそも寝違えによる首の痛みはなぜ起こるのか
多くの人が経験する寝違えは、正式には「急性疼痛性頸部拘縮」と呼ばれ、睡眠から目覚めた際に首から肩にかけて痛みが生じ、首を動かせなくなる状態を指します。
その原因は一つではなく、睡眠中の姿勢や使用している寝具、さらには日々の疲労やストレスといった複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。
これらの要因によって、首周りの筋肉や靭帯に負担がかかり、炎症や筋肉のけいれんが引き起こされます。
睡眠中の不自然な姿勢
寝違えの最も一般的な原因は、睡眠中の不自然な姿勢です。
例えば、ソファや床でうたた寝をしてしまったり、電車や飛行機の座席で首を大きく傾けたまま眠ってしまったりすると、首の一部分に長時間負担がかかり続けます。
このような状態では、首の関節や筋肉、靭帯が通常動かせる範囲を超えて伸びてしまい、微細な断裂や炎症を引き起こすことがあります。
これが目覚めたときの急な痛みや可動域の制限につながります。
枕などの寝具が合っていない
毎日使用する枕やマットレスが体に合っていないことも、寝違えの大きな原因となります。
特に枕の高さは重要で、高すぎると首が不自然に曲がり、低すぎると頭が沈み込んで首や肩の筋肉に負担がかかります。
また、マットレスが柔らかすぎると体が沈み込んで寝返りが打ちにくくなり、硬すぎると体圧が分散されず特定の部分に負担が集中します。
これらの寝具が原因で血行不良や筋肉の過度な緊張が起こり、寝違えを引き起こしやすくなります。
疲労やストレスによる筋肉の硬直
過度な肉体労働や長時間のデスクワークによる身体的な疲労、あるいは精神的なストレスが蓄積すると、自律神経のバランスが乱れ、無意識のうちに首や肩周りの筋肉が硬直しやすくなります。
筋肉が常に緊張した状態では血行も悪化し、柔軟性が失われます。
このような状態で睡眠をとると、少しの負担でも筋肉や靭帯を傷つけやすくなり、寝違えを発症するリスクが高まります。
日頃から疲労やストレスを溜めないよう心掛けることが予防につながります。
芍薬甘草湯を服用する前に知っておきたい注意点
芍薬甘草湯は急な痛みに対して効果が期待できる一方、服用にあたってはいくつかの注意点があります。
特に、構成生薬である「甘草」の摂取量には注意が必要で、長期にわたる服用や他の漢方薬との併用は、副作用のリスクを高める可能性があります。
また、持病がある人や高齢者、妊婦などは、服用前に必ず医師や薬剤師に相談することが重要です。
安全に使用するためにも、正しい知識を持って適切に服用することが求められます。
服用するタイミングと正しい飲み方
芍薬甘草湯は、一般的に空腹時である食前(食事の約30分前)または食間(食事と食事の間、食後約2時間後)に、水または白湯で服用することが推奨されています。
これは、胃に食べ物が入っていると生薬の吸収が妨げられる可能性があるためです。
特に、寝違えやこむら返りのような急な痛みに対しては、症状が現れたときにすぐに服用する「頓服」としての使い方が効果的です。
用法・用量を守り、自己判断で過剰に摂取しないように注意が必要です。
長期間の服用は医師への相談が必要
芍薬甘草湯は、急な症状を緩和するための頓服的な使用が基本であり、漫然と長期間にわたって服用を続けることは推奨されません。
その理由は、構成生薬の一つである「甘草」を大量に、あるいは長期間摂取し続けると、副作用のリスクが高まるためです。
症状が一時的でなく、数日間たっても改善しない場合や、頻繁に繰り返す場合は、背後に別の原因が隠れている可能性も考えられます。
その際は自己判断で服用を続けず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
特に注意すべき副作用「偽アルドステロン症」とは
芍薬甘草湯の服用で最も注意すべき副作用が「偽アルドステロン症」です。
これは、甘草の主成分であるグリチルリチン酸の作用により、体内にナトリウムと水分が溜まり、カリウムが排出されやすくなることで起こります。
主な初期症状として、手足のむくみ、血圧の上昇、体重の増加、筋肉の脱力感、手足のしびれなどが現れます。
このような症状が見られた場合は、直ちに服用を中止し、医師の診察を受ける必要があります。
特に高齢者や高血圧の人は発症しやすいため注意が必要です。
その他の副作用と服用を避けるべき人
偽アルドステロン症以外にも、芍薬甘草湯の副作用として、食欲不振、胃の不快感、吐き気、下痢などの消化器症状が報告されています。
また、稀に発疹やかゆみなどのアレルギー反応が起こることもあります。
心臓や腎臓に疾患のある人、高血圧の人、むくみのある人は、症状を悪化させる可能性があるため、服用前に必ず専門家へ相談してください。
低カリウム血症のある人は原則として服用を避けるべきです。
高齢者や妊婦、または妊娠の可能性がある人も、自己判断での服用はせず、医師や薬剤師の指示に従う必要があります。
芍薬甘草湯だけに頼らない!つらい首の痛みを和らげるセルフケア
芍薬甘草湯は急な首の痛みを和らげるのに役立ちますが、薬だけに頼るのではなく、日々のセルフケアを併せて行うことが症状の改善と再発予防につながります。
痛みの程度や時期によって適切な対処法は異なります。
急性期には安静を保ち、炎症が落ち着いてきたら温めて血行を促進するなど、段階に応じたケアを心掛けることが大切です。
無理のない範囲で生活習慣を見直すことが、根本的な解決への一歩となります。
痛む部分を無理に動かさず安静にする
寝違えを起こした直後など、痛みが強い急性期には、まず安静を保つことが最も重要です。
この時期は、首の筋肉や靭帯に炎症が起きている状態なので、無理に首を動かしたり、ストレッチやマッサージをしたりすると、かえって炎症を悪化させてしまう可能性があります。
痛みを感じる動作は避け、楽な姿勢で過ごすように心掛けてください。
必要に応じてネックカラーなどで首を固定し、負担を軽減することも有効な手段の一つです。
炎症が治まったら首周りを優しく温める
痛みが最も強い時期(発症から1〜2日程度)を過ぎ、ズキズキとした鋭い痛みが和らいできたら、今度は首周りを温めるケアに切り替えます。
蒸しタオルやカイロ、シャワーや入浴などを利用して首の周辺をじんわりと温めることで、硬直した筋肉がほぐれ、血行が促進されます。
血流が改善されると、痛みの原因となっている疲労物質が排出されやすくなり、筋肉の回復を助けます。
ただし、まだ熱感や強い痛みが残っている場合は温めず、安静を続けてください。
首に負担をかけないストレッチを試す
痛みがかなり落ち着いてきた回復期には、無理のない範囲で軽いストレッチを取り入れると効果的です。
ゆっくりと首を前後左右に倒したり、ゆっくり回したりすることで、硬くなった筋肉の柔軟性を取り戻し、血行を改善します。
このとき、痛みを感じるほど強く伸ばしたり、急に動かしたりするのは避けてください。
「気持ちいい」と感じる程度で止め、あくまで優しく行うことが重要です。
ストレッチを習慣にすることで、寝違えの再発予防にもつながります。
まとめ
芍薬甘草湯は、筋肉の急なけいれんや痛みを和らげる作用があり、寝違えによる首の痛みや肩こり、こむら返りなどに対して効果が期待できる漢方薬です。
その一方で、甘草の成分による偽アルドステロン症などの副作用も存在するため、長期的な服用は避け、症状が改善しない場合は専門医に相談することが必要です。また、薬の服用と並行して、安静、温熱療法、ストレッチなどのセルフケアを行い、寝具を見直すなど、痛みの根本原因に対処していくことが症状の改善と再発防止につながります。
