自律神経失調症と漢方薬:効果や症状別の選び方を解説

自律神経失調症と漢方薬:効果や症状別の選び方を解説 漢方

自律神経失調症と漢方薬の関係について、その効果や症状に合わせた選び方を解説します。
自律神経の乱れから生じる心身の不調に対し、漢方薬は特定の症状を抑えるだけでなく、体全体のバランスを整えることでアプローチします。

多様な症状に対応するため、一人ひとりの体質や状態を見極め、適切な漢方薬を選ぶことが、根本的な改善への鍵となります。
この記事では、自律神経失調症に使用する漢方薬の種類やその選び方について詳しく紹介します。

自律神経失調症のつらい症状…漢方で改善が期待できる理由

自律神経失調症の治療において、漢方治療は心と体のバランスを全体的に整えることを目的とします。
西洋医学的な治し方が症状を直接抑える対症療法が中心であるのに対し、漢方では不調の根本原因を探り、体質そのものを改善することで、症状が出にくい状態を目指します。

このアプローチにより、一つの薬で複数の症状が改善することも少なくありません。
漢方療法を通じて心身の調和が取れることで、つらい症状が「良くなった」と感じられるような回復が期待できます。

自律神経の乱れによって起こる心身の不調

自律神経の乱れは、心と体の両面に様々な不調を引き起こします。
精神的な症状としては、イライラ、不安感、うつ、不眠、眠気などが現れます。
身体的には、めまい、ふらつき、動悸、息苦しさ、頭痛、肩こり、耳鳴り、聴覚過敏、口の渇きなどが起こり得ます。

また、消化器系にも影響が及び、吐き気、腹痛、食欲不振、胃腸の不調をきたすこともあります。
その他、血圧の変動、のぼせ、冷え、多汗、疲れやすい、かゆみ、微熱など、その症状は全身にわたり、多岐にわたるのが特徴です。

心と体のバランスを包括的に整える漢方の考え方

漢方では、心と体を一体のものと捉える「心身一如」という考え方が基本にあります。
そのため、自律神経失調症のような心身にまたがる不調に対して、包括的なアプローチをとります。
特定の症状だけを抑えるのではなく、体全体のバランスを構成する「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の乱れを整えることを重視します。

例えば、ストレスによる「気」の滞りや、ホルモンバランスの乱れによる「血」の異常など、不調の根本原因に働きかけることで、体質から改善を目指します。
これにより、表面的な症状だけでなく、不調の根源から心身を健やかな状態へと導きます。

【症状・体質別】自律神経失調症におすすめの漢方薬

自律神経失調症の症状や体質は個人差が大きく、どの漢方薬が合うかは人それぞれです。
そのため、自分に合ったおすすめの漢方薬を見つけることが重要となります。
例えば、冷え性で体力がなく疲れやすい方、ストレスでイライラしやすい方、更年期や思春期のホルモンバランスの変動に悩む方、男性特有の不調を感じる高齢者など、性別や年齢、体質によって適した漢方薬は異なります。

自分の状態をチェックし、どのタイプの不調に当てはまるかを知ることが、適切な漢方薬を選ぶ第一歩です。

イライラや不安感が強い場合の漢方薬

精神的な緊張やストレスからくるイライラ、怒りっぽさ、不安感が強い場合には、「抑肝散(よくかんさん)」が用いられます。
この漢方薬は、高ぶった神経を鎮め、筋肉の緊張を和らげる働きがあります。

もともとは子どもの夜泣きやひきつけに使われていましたが、現在では大人の神経症や不眠症、歯ぎしり、更年期障害、認知症の周辺症状など、幅広い精神症状に応用されています。
特に、体力が中等度で、些細なことが気になって眠れない、あるいは夢見が悪いといった悩みを持つ方に適しており、不安障害の治療にも使われることがあります。

動悸や不眠で悩んでいる時の漢方薬

心身の疲労が蓄積し、動悸や不安感、なかなか寝付けないといった不眠の症状に悩む場合には、「加味帰脾湯(かみきひとう)」が適しています。
胃腸の働きを助けながら心に栄養を与え、精神を安定させる効果が期待できます。

一方、体力がなく、心身が疲れている状態で、眠りが浅い、途中で目が覚める、夢を多く見るといったタイプの不眠には「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」が用いられます。
心身の熱を冷まし、神経の高ぶりを鎮めることで、自然な眠りへと導きます。
どちらも体力がなく、精神的なストレスを感じやすい方の不眠や動悸の改善に役立ちます。

めまいや喉のつかえ感がある時の漢方薬

ストレスや不安から喉に何か詰まったような違和感(梅核気)を覚えたり、気分がふさぎ込んだりする場合には、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が用いられます。
この漢方薬は「気」の巡りを改善し、滞ったエネルギーを動かすことで、喉のつかえ感や不安な気持ちを和らげます。

一方、立ちくらみや、体がふわふわと揺れるようなめまい、頭痛、動悸などがある場合は、「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」が適しています。
体内の水分代謝の乱れを整えることで、めまいの症状を改善します。
ツムラの製品番号ではツムラ39がこれにあたります。

冷えや疲労感が気になる場合の漢方薬

体力があまりなく、手足が冷えやすい、疲れやすい、めまいや立ちくらみがするといった症状が気になる場合には、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が適しています。
この漢方薬は、血行を促進して体を温める「血」を補い、体内の余分な水分の排出を助ける働きがあります。
これにより、冷え性を改善し、疲労感を和らげます。

特に、貧血傾向で顔色が悪く、むくみやすい女性に多く用いられ、月経不順や月経痛、更年期障害、産前産後の不調など、女性特有の悩みに幅広く対応します。
全身のバランスを整え、体質改善をサポートします。

ホルモンバランスの乱れに伴う不調向けの漢方薬

更年期などでホルモンバランスが乱れ、のぼせやほてり、イライラ、不安感、肩こりといった多様な精神・身体症状が現れる場合には、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」がよく用いられます。
この漢方薬は「気」と「血」の巡りを整え、体の上部にこもった熱を冷ますことで、精神的な不安定さを改善します。
ツムラの製品番号では24がこれにあたります。

一方、比較的体力があり、のぼせて足は冷える、下腹部に抵抗感や圧痛がある、月経トラブルや肩こりが気になる場合には、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」が適しています。
滞った「血」の巡りを改善する効果が期待できます。

自律神経失調症向けの漢方薬はどこで手に入る?

自律神経失調症に用いられる漢方薬を入手する方法は主に二つあります。
一つはドラッグストアや薬局で市販薬を購入する方法、もう一つは病院やクリニックなどの医療機関で医師の診察を受け、処方してもらう方法です。
どちらの方法にもそれぞれ特徴があり、自分の症状の程度やライフスタイルに合わせて選択することが可能です。

特に東京や大阪などの都市部では、漢方を専門に扱うクリニックも増えていて、より専門的な相談ができる場所も選択肢に含まれます。
また、地方でも漢方相談が出来るところは、もちろんありますし、オンライン相談であれば、場所に関係なく相談することが出来ます。

ドラッグストアなどで購入できる市販薬

ドラッグストアや薬局では、処方箋なしで購入できる市販の漢方薬が数多く販売されています。
ツムラやクラシエといった大手メーカーから、「ツムラ漢方」シリーズなど、様々な製品が提供されています。
これらの市販薬は、パッケージに効能・効果が分かりやすく記載されており、自分の症状に合わせて選びやすいのが特徴です。

比較的症状が軽い場合や、まずは手軽に試してみたいという場合に便利です。
ただし、市販の漢方薬は多くの人に合うように作られているため、効果がマイルドな傾向にあります。
自己判断で選ぶ際は、薬剤師に相談することも重要です。

医師の診察を受けて処方される医療用漢方薬

医療機関で医師の診察を経て処方される漢方薬は医療用漢方薬と呼ばれます。
この場合、医師が患者一人ひとりの体質や症状、心身の状態を総合的に診断し、その人に最も適した漢方薬を選んで処方します。
漢方独自の診断方法である証に基づいて処方が決定されるため、より的確な効果が期待できます。

また、医療用漢方薬は健康保険が適用されるため、市販薬を長期間購入するよりも経済的な負担が少なく済むことが多いです。
根本的な体質改善を目指す場合や、症状が重い場合には、専門家の診断を受けることが推奨されます。

市販薬と処方薬で異なる点とは

市販薬と処方薬の最も大きな違いは、入手方法と専門家の介在の有無です。
市販薬はドラッグストアなどで自己判断で購入できますが、処方薬は医師の診断に基づいて処方されます。

また、一般的に医療用として処方される漢方薬の方が、市販薬に比べて有効成分の含有量が多い場合があります。
さらに、処方薬は健康保険が適用されるため、自己負担額を抑えられる一方、市販薬は全額自己負担となります。
どちらの薬を選ぶかは、症状の軽重や、専門家による診断を希望するかどうかによって変わってきます。
自分の状態に合わせて適切な選択をすることが大切です。
また、煎じ薬を扱うクリニックや漢方薬局では、よりオーダーメイド的に漢方を服用することが出来ます。

漢方薬を服用する前に知っておきたい注意点

漢方薬は自然由来の生薬から作られているため、体に優しいイメージがありますが、医薬品であることに変わりはありません。
そのため、服用する前にはいくつかの注意点を理解しておくことが重要です。
効果を実感できるまでの期間には個人差があり、また、体質に合わない場合には副作用が現れる可能性もゼロではありません。

他の薬との飲み合わせや、自己判断で選ぶことのリスクについても正しく知り、安全に漢方治療を進めるための知識を身につけておくことが求められます。

効果を実感するまでにかかる期間の目安

漢方薬の効果が現れるまでの期間は、その人の体質や症状、服用する薬の種類によって異なります。
風邪のひきはじめに用いる葛根湯のように、比較的早く効果が出るものもありますが、自律神経失調症のような慢性的な不調や体質改善を目的とする場合は、効果を実感するまでに時間がかかることが一般的です。
多くの場合、まずは2週間から1ヶ月程度服用を続けて様子を見ます。

数ヶ月単位でじっくりと心身のバランスを整えていくケースも少なくありません。
焦らずに継続することが大切ですが、長期間服用しても変化が見られない場合は、薬が合っていない可能性もあるため専門家に相談が必要です。

副作用が起こる可能性について

漢方薬は副作用が少ないと思われがちですが、医薬品であるため体質に合わない場合は副作用が起こる可能性があります。
比較的よく見られる副作用としては、食欲不振、胃もたれ、吐き気、下痢、便秘といった消化器症状や、皮膚の発疹、かゆみなどが挙げられます。

また、まれに重篤な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害、偽アルドステロン症(甘草の過剰摂取によるむくみ、血圧上昇など)が報告されています。
服用を開始してから、いつもと違う体調の変化を感じた際には、自己判断で続けずに、直ちに服用を中止して医師や薬剤師に相談することが重要です。

他の薬との飲み合わせで気をつけること

複数の薬を服用している場合、漢方薬との飲み合わせには注意が必要です。
特に、異なる種類の漢方薬を同時に服用すると、同じ生薬成分(例えば、甘草や麻黄など)が重複し、過剰摂取となって副作用のリスクが高まることがあります。

また、西洋薬と併用することで、互いの効果に影響を与え、作用が強まったり弱まったりする可能性も考えられます。
例えば、血圧の薬や利尿剤と甘草を含む漢方薬の併用は、低カリウム血症のリスクを高めることがあります。
現在服用中の薬がある場合は、漢方薬を始める前に必ず医師や薬剤師に伝え、相互作用について確認してください。

自己判断で選ばず専門家に相談する重要性

漢方薬は、個人の体質や症状を総合的に見極める「証」という独自の診断基準に基づいて処方されます。
この「証」が合っていないと、期待した効果が得られないばかりか、かえって症状を悪化させてしまうこともあります。
市販薬を選ぶ際も同様で、パッケージの効能書きだけを頼りに自己判断で選ぶのは難しい場合があります。

そのため、自律神経失調症の改善を目指すのであれば、漢方に詳しい医師(漢方医)や薬剤師といった専門家に相談することが極めて重要です。
専門家による適切な診断のもと、自分に最も合った漢方薬を選ぶことが、安全で効果的な治療への第一歩となります。

自律神経失調症と漢方に関するよくある質問

自律神経失調症の改善のために漢方薬を検討する際、多くの人が疑問に思う点があります。
例えば、治療にかかる費用、特に保険適用の有無は気になるポイントです。

また、どの医療機関の何科を受診すればよいのか、あるいは妊娠中や授乳中といったデリケートな時期に服用しても問題ないのかなど、具体的な質問が寄せられます。
ここでは、そうした漢方治療を始めるにあたっての一般的な疑問点を取り上げ、安心して治療に臨めるように解説します。

漢方薬の服用に保険は適用されますか?

医療機関で医師が治療上必要と判断し、処方する漢方薬(医療用漢方エキス製剤)については、健康保険が適用されます。
現在、約150種類の漢方薬が保険適用の対象となっており、これにより患者は費用の自己負担割合(通常1割から3割)で治療を受けることが可能です。
ただし、これは医師の処方によるものに限られます。

薬局やドラッグストアで自ら購入する市販の漢方薬や、漢方薬局で処方される煎じ薬の一部は保険適用外となり、全額自己負担となるため注意が必要です。
保険適用での治療を希望する場合は、必ず医療機関を受診してください。

どの診療科を受診すれば漢方を処方してもらえますか?

病院を受診する場合、漢方薬は特定の診療科だけで処方されるものではなく、内科、心療内科、精神科、婦人科など、様々な科で処方を受けることが可能です。
自律神経失調症の症状は多岐にわたるため、めまいが主症状なら耳鼻咽喉科、腹痛や下痢なら消化器内科、月経不順が伴うなら婦人科といったように、最もつらい症状に合わせて受診するのも一つの方法です。

また、心身両面の不調を総合的に診てくれる心療内科や、かかりつけの内科で相談するのも良いでしょう。
より専門的な漢方治療を希望する場合は、「漢方外来」や「漢方専門医」を標榜する医療機関を探すことをお勧めします。

妊娠中や授乳中でも漢方薬は飲めますか?

妊娠中や授乳中の漢方薬の服用は自己判断で行うべきではありません。
漢方薬の中には妊娠中に安全に使えるとされるものがある一方で、子宮の収縮を促す作用のある大黄や、胎児に影響を及ぼす可能性のある附子など、避けるべき生薬も存在します。

体質や妊娠の時期によっても使用できる薬は異なるため、服用を希望する場合は、必ずかかりつけの産婦人科医や漢方に詳しい医師、薬剤師に相談することが不可欠です。
専門家の指導のもと、安全性を確認した上で適切な漢方薬を受けるようにしてください。

漢方とあわせて試したいセルフケア

漢方薬による体質改善を目指す上で、日々の生活習慣を見直すセルフケアを並行して行うことは、その効果を大きく後押しします。
自律神経のバランスは、食事、ストレス、睡眠といった日常の様々な要素に影響されるためです。

漢方薬で体の内側から調子を整えつつ、生活の中に意識的にセルフケアを取り入れることで、相乗効果が期待できます。
ここでは、食事やストレス解消、睡眠の質向上など、今日から始められる具体的なセルフケアの方法を紹介します。

食生活で自律神経を整えるポイント

自律神経のバランスを整えるためには、規則正しく栄養バランスの取れた食生活が基本となります。
特に幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの材料になるトリプトファン(大豆製品、乳製品、バナナなど)や、神経の働きを助けるビタミンB群(豚肉、玄米、レバーなど)の摂取が重要です。

またストレスへの抵抗力を高めるビタミンC(果物、野菜など)も積極的に摂りたい栄養素です。
朝食を抜かず毎日決まった時間に食事を摂ることで生活リズムを整えることも効果的です。
体を冷やす飲食物は避け消化の良い温かい食事を心がけることが、胃腸の負担を減らし自律神経の安定につながります。

ストレスを上手に解消するリフレッシュ方法

ストレスは自律神経の乱れを引き起こす最大の要因の一つであり、こまめに発散させることが大切です。
ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動は、血行を促進し、心身をリラックスさせる効果があります。
また、音楽を聴く、読書をする、映画を観るなど、自分が心から楽しめる趣味の時間を持つことも有効です。

自然の多い公園を散歩したり、緑を眺めたりするだけでも気分転換になります。
特に夏場など暑い時期は、シャワーで済ませがちですが、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで副交感神経が優位になり、心身の緊張をほぐすことができます。

質の良い睡眠をとるための工夫

睡眠は、日中の活動で疲れた心と体を回復させ、自律神経のバランスをリセットする上で非常に重要です。
質の良い睡眠を得るためには、就寝前の習慣を見直しましょう。
スマートフォンやパソコンが発するブルーライトは脳を覚醒させるため、就寝1〜2時間前には使用を控えるのが理想的です。
また、寝室を暗く静かな、快適な温度・湿度に保つことも大切です。

カフェインやアルコールの摂取は睡眠の質を低下させるため、就寝前は避けるようにします。
毎日なるべく同じ時間に起きて朝日を浴びることで体内時計が整い、夜の自然な眠りにつながります。

まとめ

自律神経失調症の漢方治療は、個々の症状に対応するだけでなく、心身全体のバランスを整え、体質から改善することを目指すアプローチです。
イライラや不眠、めまい、冷えといった多様な不調に対し、その人の「証」に合った漢方薬が選ばれます。
市販薬もありますが、より的確な効果を求めるなら、漢方に詳しい医師や薬剤師などの専門家に相談し、適切な選薬を受けることが重要です。

漢方薬の服用とあわせて、食生活の改善やストレスケア、質の良い睡眠といったセルフケアを実践することで、治療効果を高め、不調の根本的な解決につながります。

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