パニック障害と漢方薬:不安を和らげる薬の選び方を解説
漢方
パニック障害による突然の発作や強い不安感に悩まされている方にとって、漢方薬は選択肢の一つです。
西洋薬に抵抗がある、あるいは併用して効果を高めたいと考える方も少なくありません。
漢方では、心と体のバランスを整えることで症状の根本的な改善を目指します。
この記事では、パニック障害に対する漢方薬の効果や役割、具体的な薬の種類、そして自分に合ったものを選ぶためのポイントについて詳しく解説します。
パニック障害とは?突然の動悸や息切れなどの発作が特徴
パニック障害は、突然理由もなく激しい動悸やめまい、息苦しさ、吐き気といったパニック発作を繰り返す不安障害の一種です。
発作自体は数分から数十分で収まることが多いですが、「また発作が起きたらどうしよう」という強い恐怖感(予期不安)を抱くようになります。
この予期不安が、発作が起きやすい場所や状況を避ける行動につながり、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
パニック障害の明確な原因は解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れやストレス、過労などが関係していると考えられています。
自律神経失調症と症状が似ているため、区別が難しい場合もあります。
パニック障害における漢方薬の役割
パニック障害の改善方法では、一般的に抗うつ薬や抗不安薬などの西洋薬が用いられますが、漢方薬も有効な選択肢となります。
漢方の考え方では、パニック障害を心と体のエネルギーである「気・血・水(き・けつ・すい)」のバランスの乱れや、特定の臓腑の機能失調と捉えます。
例えば、不安や緊張は「気」の巡りが滞る「気滞(きたい)」や、気が上へ突き上げる「気逆(きぎゃく)」などが原因と考えられます。
漢方薬は、個々の体質や症状に合わせてこれらの乱れを整えることで、心身全体のバランスを回復させ、症状が出にくい体質へと導きます。
西洋薬が症状を直接抑えるのに対し、漢方療法は根本的な原因にアプローチするのが特徴です。
パニック障害に漢方薬を用いる5つのメリット
パニック障害の改善に漢方薬を取り入れることには、西洋薬とは異なる様々なメリットがあります。
漢方薬は、心と体の全体的なバランスを整えることを重視するため、表面的な症状の緩和だけでなく、根本的な体質改善を目指せます。
また、一つの薬で複数の症状に対応できることや、副作用が比較的少ないとされる点も大きな利点です。
ここでは、パニック障害に漢方薬を用いる具体的なメリットを5つ紹介します。
メリット1:心と体のバランスを整え根本改善を目指せる
漢方療法の最大のメリットは、心と体のバランスを整え、根本的な改善を目指せる点にあります。
漢方では、パニック障害の症状を、体全体の不調和のサインと捉えます。
原因を「気・血・水」の乱れや自律神経の不調に見出し、その人の体質に合った漢方薬を用いて全身のバランスを調整します。
これにより、症状を一時的に抑えるだけでなく、症状が起こりにくい体質へと導くことを目的とします。
対症療法とは異なり、体質から見直すことで、結果的に完治を目指すアプローチといえます。
自律神経の働きを整え、心身の調和を取り戻すことで、パニック障害の再発予防にもつながります。
メリット2:複数の症状に同時にアプローチできる
パニック障害の方は、動悸や息切れといった主症状以外にも、頭痛、肩こり、不眠、胃腸の不調、冷えなど、様々な身体的・精神的な不調を併せ持つことが少なくありません。
漢方薬は、一つの薬でこれらの複数の症状に同時に働きかけることができるのが特徴です。
例えば、更年期に伴うイライラやほてりと、パニック障害の症状が重なっている場合でも、両方に対応する漢方薬を選ぶことが可能です。
全身のバランスを整えるという漢方独自の考え方により、一つの薬で多角的にアプローチできるため、多くの悩みを抱える方にとって大きなメリットとなります。
メリット3:副作用が比較的少なく体にやさしい
漢方薬は、自然由来の生薬を複数組み合わせて作られており、一般的に西洋薬と比較して副作用が少なく、体にやさしいとされています。
そのため、西洋薬の副作用が心配な方や、体力が低下している方でも服用しやすい場合があります。
もちろん、漢方薬にも副作用が全くないわけではなく、体質に合わない場合は胃腸症状や皮膚症状などが現れることもあります。
しかし、適切な選薬のもとで服用すれば、そのリスクは比較的低いと考えられています。
妊娠中や授乳中での方は、専門家に相談の上で選択肢の一つとして検討できる点もメリットです。
メリット4:西洋薬との併用も検討できる
漢方薬は、パニック障害の標準治療で用いられる抗うつ薬や抗不安薬などの西洋薬と併用することも可能です。
西洋薬が症状を速やかに抑える一方で、漢方薬は体質改善を促し、心身のバランスを整える働きをします。
両者を併用することで、それぞれの長所を活かした治療が期待できます。
例えば、西洋薬で急な発作をコントロールしつつ、漢方薬で自律神経の乱れを整えたり、西洋薬の副作用を軽減したりする使い方があります。
ただし、薬の飲み合わせによっては予期せぬ作用が生じる可能性もあるため、併用を希望する場合は必ず自己判断せず、処方を受けている医師や薬を選んでもらう薬剤師に相談することが重要です。
メリット5:病名がつかない不調にも対応できる
パニック発作のような症状はあるけれど、診断基準は満たさない、なんとなく不安で、動悸やめまいがするといった、明確な病名がつかない不調、いわゆる未病の状態にも漢方薬は対応できます。
漢方では、病名ではなく、その人の体質や症状の全体像(証)を重視して薬を決定します。
そのため、西洋医学的な検査では異常が見つからないような心身の不調に対しても、バランスの乱れを整えることで改善を図ることが可能です。
はっきりとした診断がつく前の段階からアプローチできるため、症状の悪化を防ぎ、早期の回復をサポートする役割が期待されます。
漢方薬を服用する前に知っておきたい注意点
漢方薬はパニック障害の改善において多くのメリットが期待できる一方で、服用を始める前に知っておくべき注意点もいくつか存在します。
効果の現れ方には個人差があり、西洋薬のようにすぐに効果を実感できるとは限りません。
また、自分の体質に合わないものを選んでしまうと、十分な効果が得られないばかりか、かえって体調を崩す可能性もあります。
ここでは、漢方薬を服用する上での注意点を具体的に解説します。
効果を実感するまでに時間がかかる場合がある
漢方薬は、症状を直接抑えるというよりも、体質そのものを改善していくことで効果を発揮します。
そのため、西洋薬のような即効性は期待しにくく、効果を実感するまでに数週間から数ヶ月単位の時間がかかることが一般的です。
特に、長期間にわたって抱えてきた慢性的な症状ほど、改善には時間が必要とされます。
すぐに効果が出ないからといって自己判断で服用を中止せず、専門家の指示に従い、一定期間は継続して服用することが大切です。
焦らずじっくりと自分の体と向き合い、変化を見守る姿勢が求められます。
ただし、体質に合えば比較的早く効果が現れるケースもあります。
自分の体質に合う漢方薬を選ぶのが難しい
漢方治療の要は個々の体質や症状に合った薬を選ぶ「随証治療」にあります。
同じパニック障害という診断でも体力があるか、冷え性か、胃腸は丈夫か、ストレスの感じ方はどうかなど、その人の「証」によって適した漢方薬は全く異なります。
例えば同じ「不安」という症状でもイライラを伴う場合と、気力がない場合では漢方薬が変わります。
この「証」の見極めは専門的な知識を要するため自己判断で市販薬を選ぶのは非常に難しいです。
合わない漢方薬を服用すると効果がないばかりか、副作用を引き起こす可能性もあるため必ず専門の医師や薬剤師に相談することが重要です。
特有の味や香りで飲みにくさを感じることがある
漢方薬は、複数の生薬を組み合わせているため、特有の味や香りがあり、人によっては飲みにくさを感じることがあります。
特に、煎じ薬は効果が高いとされる一方で、その風味に抵抗を感じる方も少なくありません。
最近では、エキスを顆粒や錠剤にしたものが主流となっており、以前よりは格段に服用しやすくなっています。
それでも飲みにくい場合は、オブラートに包んだり、服薬用のゼリーを使ったり、ぬるま湯に溶かして少量ずつ飲むなどの工夫で対処できます。
継続して服用することが効果を得るためには不可欠なので、自分にとって続けやすい方法を見つけることが大切です。
【症状別】パニック障害に用いられる代表的な漢方薬
パニック障害に対しては、個々の症状や体質に合わせて様々な漢方薬が用いられます。
漢方では、不安や動悸、めまいといった症状が、体のどの部分のバランスの乱れから生じているのかを探り、それに合った薬を選択します。
ここでは、パニック障害の治療でよく使われる代表的な漢方薬を、主な症状別にいくつか紹介します。
ただし、これらはあくまで一例であり、最適な漢方薬は専門家に相談することが必要です。
不安感やイライラが強い場合は「柴胡加竜骨牡蛎湯」
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、比較的体力があり、精神的なストレスからくる不安感、イライラ、不眠、動悸などの症状に用いられる漢方薬です。
精神を安定させる作用があり、神経の高ぶりを鎮めてくれます。
些細なことが気になって眠れない、胸がドキドキする、のぼせやすいといった方に特に効くとされています。
ストレスによって乱れた「気」の流れをスムーズにし、過敏になった神経を落ち着かせることで、精神的な不安定さを和らげます。
パニック障害の予期不安や広場恐怖のように、精神的な緊張が強いケースに適している漢方薬の一つです。
ストレスによる不眠や神経の高ぶりには「抑肝散」
抑肝散は、もともと子どもの夜泣きやひきつけに使われてきた薬ですが、現在では大人の神経症や不眠症にも広く応用されています。
特に、ストレスによって神経が高ぶり、イライラや怒りっぽさ、歯ぎしり、筋肉のけいれんなどが現れる場合に適しています。
また、筋肉のけいれんには、芍薬を加えるとより良いでしょう。
抑肝散は、高ぶった神経を鎮め、心身の緊張を緩和する働きがあります。
不安や焦燥感が強く、なかなか寝付けない、眠りが浅いといったパニック障害に伴う睡眠の問題に効果が期待できます。
体力が中等度以下で、繊細でストレスを溜め込みやすいタイプの人の精神安定によく用いられる漢方薬です。
喉のつかえ感や気分の落ち込みには「半夏厚朴湯」
半夏厚朴湯は、喉に何か詰まったような異物感(梅核気)や、それに伴う咳払い、息苦しさ、気分の落ち込みなどに用いられる漢方薬です。
ストレスや不安によって「気」の巡りが滞り、喉の周辺に停滞することで、こうした症状が現れると漢方では考えます。
半夏厚朴湯は、滞った「気」を巡らせることで、喉のつかえ感や息苦しさを改善し、ふさぎ込んだ気分を晴れやかにする効果が期待されます。
体力は中等度で、心配性でデリケートな方に適しています。
パニック発作時に息苦しさや喉の違和感を強く感じる場合に選択されることがあります。
動悸やめまい、疲れやすさを感じるなら「加味逍遙散」
加味逍遙散は、体力が中等度以下で、疲れやすく、精神的な不安定さを伴う様々な症状に広く用いられる漢方薬です。
特に、イライラや不安感、不眠といった精神症状に加え、肩こり、頭痛、のぼせ、冷えなどの身体症状が混在する場合に適しています。
乱れた「気」と「血」の巡りを整え、ホルモンバランスの乱れにも対応するため、月経不順や更年期障害に伴う精神症状にもよく使われます。
パニック障害の症状として、動悸やめまい、漠然とした不安感、倦怠感などがみられる場合に効果が期待できる漢方薬です。
自分に合った漢方薬を選ぶための3つのポイント
パニック障害の改善のために漢方薬を試す際、最も重要なのは自分の体質や症状に合ったものを選ぶことです。
数多くの種類の中から最適な一剤を見つけ出すには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
自己判断で選ぶのではなく、専門家の知識を借りること、そして自分自身の体の状態を正しく理解することが、効果的な漢方治療への第一歩となります。
ここでは、自分に合った漢方薬を選ぶための具体的な3つのポイントについて解説します。
ポイント1:専門の医師や薬剤師に相談する
最も重要なのは、漢方に詳しい医師や薬剤師などの専門家に相談することです。
漢方薬の選択には、症状だけでなく、体質や生活習慣などを総合的に判断する「証」の見極めが不可欠です。
専門家は、問診や舌診、脈診などを通してその人に合った漢方薬を選んでくれます。
相談先としては、漢方外来のある病院やクリニック、経験豊富な薬剤師がいる漢方薬局や薬店、一部のドラッグストアなどが挙げられます。
東京や大阪などの都市部には、専門の漢方薬局が多数存在しますが、地方にも頼れる薬局は存在します。
最近は、オンライン対応している薬局もあるので、活用してみても良いでしょう。
市販薬を試す場合でも、購入前に薬局の薬剤師に相談することで、より適切な選択が可能になります。
ポイント2:自分の体質(証)を理解する
専門家に相談する際、自分の体質や状態を正確に伝えることが、適切な選薬につながります。
漢方では、体質を判断する基準として「証(しょう)」という独自の概念を用います。
これには、体力の充実度を示す「虚実(きょじつ)」、体の熱の状態を示す「寒熱(かんねつ)」などがあります。
例えば、体力がなく疲れやすい人は「虚証」、冷え性であれば「寒証」と判断されます。
日頃から自分の体調に関心を持ち、暑がりか寒がりか、食欲はあるか、睡眠の状態はどうか、便通はどうかといった点を把握しておくことが、自分の「証」を理解する助けとなり、より的確な漢方薬選びに役立ちます。
ポイント3:継続して服用できるものを選ぶ
漢方薬は、一定期間継続して服用することで効果が現れるため、続けやすさも重要な選択基準の一つです。
漢方薬には、生薬を煮出して飲む「煎じ薬」、エキスを顆粒にした「エキス剤(散剤)」、錠剤やカプセルの形にしたものなど、様々な剤形があります。
煎じ薬は効果が高いとされますが、手間がかかり味が飲みにくい場合もあります。
一方、エキス剤や錠剤は手軽に服用できます。
また、漢方薬は保険適用されるものと、自費診療や市販薬として購入するものがあり、費用も異なります。
自分のライフスタイルや予算に合わせて、無理なく続けられる剤形や購入方法を選ぶことが、漢方療法を成功させるための鍵となります。
漢方薬と西洋薬(抗不安薬など)の作用の違い
パニック障害の改善において、漢方薬と西洋薬(抗不安薬や抗うつ薬など)は、その作用の仕方に根本的な違いがあります。
西洋薬は、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質に直接作用し、不安や恐怖感を短時間で強力に抑制することを目的としています。
急なパニック発作を抑えるなど、症状に対する即効性が期待できるのが大きな特徴です。
一方、漢方薬は、特定の症状だけを狙うのではなく、心と体の全体的なバランスの乱れを整えることで、症状が起こりにくい体質へと導くことを目指します。
自律神経の乱れや「気・血・水」の不調和を是正し、根本原因にアプローチするため、効果の発現は緩やかですが、体質改善や再発予防につながる可能性があります。
まとめ
パニック障害の改善において、漢方薬は心と体のバランスを整え、根本的な体質改善を目指す有効な選択肢です。
西洋薬との併用も可能であり、個々の症状や体質に合わせた多角的なアプローチが期待できます。
ただし、効果を実感するには時間がかかる場合があり、自分に合った漢方薬を選ぶためには専門家への相談が不可欠です。
このブログで紹介した情報が、パニック障害に悩む方やそのご家族にとって、漢方療法を検討する上での一助となれば幸いです。
大切なのは、焦らずじっくりと自分の心身に向き合い、継続的に取り組むことです。
