良性発作性頭位めまい症と漢方薬:効果や体質別の選び方

良性発作性頭位めまい症と漢方薬:効果や体質別の選び方 漢方

特定の頭の向きで回転性のめまいが起こる良性発作性頭位めまい症は、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
西洋医学的な治療で症状が改善しても再発を繰り返す場合、体質からの改善を目指す漢方薬が選択肢の一つとなります。

この記事では、良性発作性頭位めまい症の基礎知識から、漢方医学的な考え方、そして症状や体質に合わせた漢方薬の選び方までを解説します。

はじめに:良性発作性頭位めまい症とは?

良性発作性頭位めまい症は、内耳にある平衡感覚を司る三半規管に耳石という炭酸カルシウムの粒が入り込むことで発症する病気です。
頭を特定の方向に動かした際に耳石がリンパ液の流れを乱し、数秒から1分程度の回転性めまいを引き起こします。

命に関わる病気ではなく多くは自然に軽快しますが再発しやすい特徴があります。

良性発作性頭位めまい症の主な症状と原因

主な症状は、寝返りをうつ、起き上がる、頭を洗うために下を向くといった特定の頭位変換時に誘発される回転性のめまいです。
めまいと同時に吐き気や嘔吐を伴うこともありますが、難聴や耳鳴りは通常みられません。
症状が治まった後も、しばらくは浮動性めまいや、ふらつきが続くことがあります。

原因は、平衡感覚を司る耳石器からはがれた耳石が、重力によって三半規管内に入り込んでしまうことです。
加齢や頭部の打撲、長期間同じ姿勢で寝ていることなどが誘因になると考えられています。

一般的な病院で行われる治療法

病院では、まず問診や眼振検査によって診断が行われます。
治療の主体となるのは、頭をゆっくりと動かして三半規管に入った耳石を元の位置に戻す理学療法(頭位治療法)です。
この治療法は非常に効果が高いとされています。

めまいや吐き気が強い場合には、症状を和らげるための抗めまい薬や制吐薬などが処方されることもありますが、これらは対症療法が中心です。
薬物療法だけで根本的に治すことは難しく、理学療法が第一選択となります。

めまいの原因となる体内の「水」の滞りを改善する

東洋医学では、めまいの大きな原因の一つに体内の水分バランスの乱れである「水滞」あるいは「水毒」があると考えます。
リンパ液や組織液など、体内の必要な水分がうまく流れずに特定の場所に滞ることで、めまいや耳鳴り、頭痛、むくみといった症状が現れるのです。

特に内耳は水分代謝の影響を受けやすい部位とされ、水分の滞りが平衡感覚の乱れにつながります。
利水作用のある漢方薬を用いて、体内の余分な水分を排出し、巡りを正常化することが改善の鍵となります。

自律神経や血の巡りを整えて根本改善を目指す

めまいの原因は水分の滞りだけでなく、生命エネルギーである「気」や、血液とその働きを指す「血(けつ)」の乱れも深く関わっています。
ストレスや過労によって「気」の流れが滞ったり、逆流したりすると、自律神経が乱れてめまいを引き起こします。
また、血行不良で脳や内耳へ十分な栄養が届かない「瘀血(おけつ)」や「血虚(けっきょ)」の状態もめまいの原因となります。

例えば、当帰芍薬散は血と水の巡りを改善しますが、、漢方薬は「気・血・水」のバランスを全体的に整えることで、めまいが起こりにくい体質へと導き、根本的な改善を目指します。

【症状・体質別】良性発作性頭位めまい症の改善が期待できる漢方薬

漢方治療では、同じめまいという症状でも、その人の体質やめまい以外の症状によって用いる薬が異なります。
ここでは、良性発作性頭位めまい症の改善に用いられる代表的な漢方薬を、症状や体質別に紹介します。

ご自身の状態と照らし合わせながら、漢方薬選びの参考にしてください。

立ちくらみや動悸が気になる方向け:苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

苓桂朮甘湯は、体力が中等度以下で、めまいやふらつき、動悸がある方に適した漢方薬です。
特に、立ち上がった時にクラッとするようなめまい(起立性低血圧)を感じる場合によく用いられます。

この漢方薬は、体内の水分代謝を整えるとともに、桂枝と甘草の組み合わせが、首から上の不定愁訴に役立つため、
神経質な傾向があり、頭痛やのぼせ、耳鳴りなどを伴う場合のめまいにも効果が期待されます。
胃腸が比較的丈夫な方向けの漢方薬です。

回転性のめまいやむくみがある方向け:五苓散(ごれいさん)

五苓散は、体内の水分バランスを調整する代表的な漢方薬で、体質を問わず比較的幅広く使用できます。
特に、回転性のめまいや、吐き気、頭痛、むくみなどを伴う場合に適しています。

五苓散は、体内の余分な水分を尿として排出させる「利水作用」に優れており、水分の偏在を是正することで症状を改善します。
天気が悪くなると体調を崩しやすい、喉が渇きやすいのに尿量が少ないといった「水滞」のサインが見られる方によく選ばれます。

胃腸が弱くふわふわしためまいを感じる方向け:半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

半夏白朮天麻湯は、胃腸が弱く、体力がなく疲れやすい虚弱体質な方のめまいに用いられる漢方薬です。
食欲不振や手足の冷え、頭痛などを伴い、ふわふわと雲の上を歩いているような浮動性のめまいが特徴です。

胃腸の働きが低下すると、体内に余分な水分や汚れが溜まりやすくなり、これがめまいの原因になると考えられています。
この漢方薬は、胃腸の働きを助けて消化吸収を促し、水分代謝を改善することで、ふわふわしためまいを鎮めていきます。

冷え性でめまいが起こりやすい方向け:真武湯(しんぶとう)

真武湯は、体を温める作用が非常に強く、新陳代謝の衰えからくるめまいに用いられる漢方薬です。
特に、体力が著しく低下しており、強い冷えとめまい、倦怠感、下痢などを伴う場合に適しています。

体の深部から温めて代謝機能を高め、水分循環を改善することで、めまいやふらつきを改善に導きます。
高齢者や、慢性的な疲労感があり、横になりたがるといった方のめまいに選ばれることが多いです。
めまい以外にも、腹痛やむくみが見られることもあります。

自分に合う漢方薬を選ぶための2つのポイント

良性発作性頭位めまい症に用いられる漢方薬は多岐にわたります。
数ある漢方薬の中から自分に最適なものを選ぶためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。

西洋医学の薬のように病名だけで選ぶのではなく、体全体の状態を把握することが、より良い効果を得るための近道です。

めまい以外の体調不良にも目を向ける

漢方薬を選ぶ上で最も重要なのは、めまいという主訴だけでなく、全身の状態を総合的に見ることです。
例えば、頭痛、肩こり、冷え、胃腸の調子、食欲の有無、睡眠の状態、気分の落ち込みといった、一見めまいとは関係なさそうな随伴症状が、薬を決める上での重要な手がかりになります。

これらの症状を丁寧に観察し、自分の体質(証)を把握することが、最適な漢方薬選びにつながります。
自分の体が出しているサインに注意深く耳を傾けてみてください。

まずは医師や薬剤師などの専門家に相談する

漢方薬は自己判断で選ぶことも可能ですが、最適な漢方薬を選ぶためには、専門的な知識が必要です。
特に、良性発作性頭位めまい症のように原因がはっきりしている場合でも、体質に合わない漢方薬では十分な効果が得られない可能性があります。
漢方に詳しい医師や薬剤師、漢方薬局の専門家に相談することで、体質や症状を総合的に判断し、最も適した薬を提案してもらえます。

病院ではツムラやクラシエなどの医療用漢方製剤が処方されることもあり、保険が適用される場合もあります。

市販薬でも効果はありますか?

ドラッグストアなどで購入できる市販の漢方薬でも、症状や体質に合っていれば効果を期待することは可能です。
クラシエなど多くのメーカーから様々な種類の漢方薬が販売されています。

ただし、市販薬は一般的に多くの人に使えるよう、医療用に比べて成分量が調整されている場合があります。
症状が強い場合や、どの薬を選べばよいか分からない場合は、医療機関や漢方薬局で専門家に相談し、自分の体質に合った薬を選んでもらう方が、より高い効果が望めます。

漢方薬はどのくらいの期間服用すればよいですか?

漢方薬は、体質そのものを改善していくことを目的としているため、西洋薬のような即効性は期待しにくい側面があります。
効果の現れ方には個人差が大きく、症状や体質によって異なりますが、一般的にはまず2週間から1ヶ月程度服用を続けて様子を見ることが推奨されます。

短期間で効果を感じる場合もありますが、根本的な体質改善を目指すには、数ヶ月単位で継続的な服用が必要になることも少なくありません。
焦らず、じっくりと自分の体と向き合いながら服用を続けることが求められます。

病院の薬と併用しても問題ありませんか?

病院で処方された西洋薬と漢方薬の併用を考える場合は、必ず事前に医師や薬剤師に相談してください。
薬の組み合わせによっては、互いの効果を高め合う相乗効果が期待できる一方で、予期せぬ副作用を引き起こしたり、効果を弱め合ったりする可能性も否定できません。

特に、他の病気の治療で薬を服用している場合は注意が必要です。
自己判断での併用は避け、現在服用している全ての薬について専門家に正確な情報を伝え、その指示に従うようにしてください。

まとめ

良性発作性頭位めまい症は、耳石が原因で起こるめまいですが、漢方医学ではその背景に体内の「気血水」のバランスの乱れがあると考えます。
特に、水分代謝の異常である「水滞」は、めまいを引き起こす大きな要因です。

漢方薬は、苓桂朮甘湯や五苓散などを用いて、体内の水分バランスを整えたり、自律神経や血行を改善したりすることで、めまいが起こりにくい体質へと導きます。
最適な漢方薬を選ぶためには、めまい以外の全身症状にも目を向け、医師や薬剤師などの専門家に相談することが重要です。

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