しぶり腹と漢方薬「桂枝加芍薬湯」とは?:ツムラの製品も解説
漢方
便意を感じてトイレに駆け込むものの、少ししか出ずに腹痛や残便感が続く「しぶり腹」は、日常生活に支障をきたすつらい症状です。
このようなお腹の不調に対して、体質から改善を目指す漢方薬が選択肢の一つとなります。
特に「桂枝加芍薬湯」は、しぶり腹の改善に用いられる代表的な漢方薬です。
市販薬としてツムラやクラシエから販売されている製品もあり、ドラッグストアなどで手に取ることも可能です。
この記事では、桂枝加芍薬湯の効果や特徴、正しい使い方について詳しく解説しますします。
「しぶり腹」とはどんな症状?腹痛や残便感の原因を解説
しぶり腹とは、頻繁に便意をもよおすにもかかわらず、いざ排便しようとしても少量しか出ないか、あるいは全く出ない状態を指します。
この症状は、腹痛や、排便後も便が残っているような不快な残便感を伴うことが多く、何度もトイレに行きたくなるのが特徴です。
主な原因として、大腸の機能に異常が生じ、腸が過度に緊張してけいれんを起こしていることが考えられます。
ストレスや冷え、食生活の乱れなどが引き金となり、自律神経のバランスが崩れて腸の正常な蠕動運動が乱れることで発症します。
過敏性腸症候群(IBS)の一症状として現れることもあり、下痢を伴うケースも少なくありません。
しぶり腹の改善に漢方薬が用いられる理由
漢方薬がしぶり腹の改善に用いられるのは、単に症状を抑えるだけでなく、不調の根本原因となっている体全体のバランスの乱れを整えることを目的としているためです。
漢方医学では、しぶり腹を「気」の流れが滞る「気滞」や、体の冷えなどが原因で起こると捉えます。
そこで、気の巡りを改善したり、体を温めたりすることで、腸の過剰な緊張を和らげ、正常な働きを取り戻すことを目指します。
西洋薬が特定の症状に直接作用するのに対し、漢方薬は個々の体質に合わせて処方され、心身両面からアプローチすることで、症状が再発しにくい状態へと導くことを得意とします。
この体質改善という考え方が、慢性的なしぶり腹に悩む場合に漢方薬が選ばれる理由です。
しぶり腹に効果が期待できる漢方薬「桂枝加芍薬湯」とは
桂枝加芍薬湯は、腹痛や腹部膨満感、便意はあってもすっきり出ないしぶり腹の症状改善に用いられる代表的な漢方薬です。
体力が中等度以下の虚弱な体質の人に向いており、特にストレスや過労によってお腹の調子が悪化しやすい場合に適しています。
腸の過剰な蠕動運動を鎮め、筋肉のけいれんを和らげる作用があるため、差し込むような腹痛を伴う下痢や便秘にも効果が期待されます。
過敏性腸症候群の治療にも応用されることがある処方です。
桂枝加芍薬湯が持つ具体的な効能・効果
桂枝加芍薬湯は体力があまりなく、お腹が張りやすい人の腹痛やしぶり腹に効果を発揮します。
具体的な適応症としては、腹部膨満感を伴うしぶり腹、下痢、便秘が挙げられます。
この漢方薬は腸管の異常な緊張を緩める働きがあり、腸の蠕動運動を正常な状態に調整します。
そのため、便意が頻繁に起こるものの少量しか出ない状態や、それに伴う痛みを和らげます。
特に、精神的なストレスが原因で症状が悪化するタイプの過敏性腸症候群(IBS)に見られる、急な腹痛と便意の波を鎮めるのに役立ちます。
お腹がゴロゴロと鳴り、ガスが溜まりやすいといった症状の改善も期待できる処方です。
配合されている生薬の種類とその働き
桂枝加芍薬湯は、桂皮、芍薬、大棗、生姜、甘草の5種類の生薬で構成されています。
基本となる「桂枝湯」という処方に、鎮痛・鎮痙作用のある芍薬の量を増やしたものです。
桂皮と生姜には体を温めて血行を促進し、胃腸の働きを助ける作用があります。
主薬である芍薬は、筋肉の緊張やけいれんを緩め、腹痛を鎮める働きを担います。
大棗は体を栄養し、精神を安定させる効果があり、甘草は諸薬の作用を調和させるとともに、急な痛みを緩和する働きを持ちます。
これらの生薬が協力し合うことで、お腹の冷えや気の滞りを改善し、腸の過緊張を和らげます。
桂枝加芍薬湯はこんな体質の人におすすめ
桂枝加芍薬湯は、比較的体力がなく、虚弱な体質(虚証)の人に適した漢方薬です。
具体的には、胃腸が弱く、疲れやすい、冷え性で顔色がすぐれないといった特徴を持つ人に向いています。
また、精神的にデリケートで、ストレスや不安を感じるとすぐにお腹の調子が悪くなる、腹痛や下痢、便秘を繰り返すといった傾向がある場合に特に効果が期待されます。
食が細く、お腹が張りやすかったり、ガスが溜まりやすかったりする症状も、この漢方薬が適応となる良い目安です。
筋肉質で体力があり、便秘がちでがっしりした体格の人(実証)よりも、線の細い、繊細なタイプの人の腹部症状に用いられることが多いです。
便秘も伴う方向けの「桂枝加芍薬大黄湯」との違い
しぶり腹の症状には「桂枝加芍薬湯」が用いられますが、便秘の傾向が特に強い場合には「桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)」という漢方薬が選択されることがあります。
この二つの漢方薬の最も大きな違いは、瀉下作用(便通を促す作用)を持つ「大黄(だいおう)」という生薬が含まれているか否かです。
桂枝加芍薬湯は腸の過緊張を緩めて排便を整えるのに対し、桂枝加芍薬大黄湯はそれに加えて大黄の力で直接的に腸を刺激し、便の排出を促します。
そのため、お腹は痛むものの便が硬くて出にくい、といった頑固な便秘を伴うしぶり腹に適しています。
ツムラから市販されている桂枝加芍薬湯関連の製品
しぶり腹などの症状に対して用いられる桂枝加芍薬湯は、専門の漢方薬局や医療機関だけでなく、ドラッグストアなどで購入できる市販薬としても販売されています。
中でも、漢方薬のメーカーとして広く知られるツムラやクラシエの製品は、手に入れやすい選択肢の一つです。
ツムラからは「ツムラ漢方桂枝加芍薬湯エキス顆粒」と、便秘傾向が強い方向けの「ツムラ漢方桂枝加芍薬大黄湯エキス顆粒」が市販されており、自身の症状に合わせて選ぶことが可能です。クラシエからも「クラシエ桂枝加芍薬湯エキス顆粒」として販売されています。
ツムラ漢方桂枝加芍薬湯エキス顆粒
ツムラ漢方桂枝加芍薬湯エキス顆粒は、ドラッグストアなどで購入できる市販の漢方薬です。
この製品は、体力中等度以下で、腹が張って痛み、頻繁に便意があるものの、すっきりと出ない人のしぶり腹、腹痛、下痢、便秘といった症状に適しています。
医療用として処方されるツムラの桂枝加芍薬湯と同じ有効成分を含んでおり、お腹の過剰な緊張を和らげ、腸の動きを整えることで症状を改善します。
顆粒タイプでお湯に溶かして服用することが推奨されており、比較的飲みやすいのが特徴です。
急な腹痛や、ストレスによるお腹の不調に悩む場合に便利な常備薬としても活用できます。
ツムラ漢方桂枝加芍薬大黄湯エキス顆粒
「ツムラ漢方桂枝加芍薬大黄湯エキス顆粒」は、しぶり腹に加えて便秘の症状が顕著な場合に適した市販の漢方薬です。
この漢方薬は、「桂枝加芍薬湯」の処方に、便通を促進する生薬である「大黄」を加えた構成になっています。
そのため、お腹の痛みや張り感を和らげる作用とともに、腸の動きを活発にしてスムーズな排便を促す効果が期待できます。
体力は中等度以下で、腹部膨満感や腹痛があり、便が硬くて出にくい、数日間排便がないといった状態の人に向いています。
ツムラの製品は、自分の症状に合わせて二つの漢方薬を使い分けることができるのが利点です。
桂枝加芍薬湯の正しい服用方法と飲むタイミング
桂枝加芍薬湯の効果を適切に得るためには、正しい服用方法を守ることが重要です。
一般的に、漢方薬は食前または食間(食事と食事の間、食後約2時間後)の空腹時に服用することが推奨されます。
これは、胃に食べ物が入っていると、有効成分の吸収が妨げられる可能性があるためです。
通常、成人は1日2回または3回、製品の用法・用量に従って水または白湯で服用します。
顆粒の場合は、お湯に溶かして飲むと、生薬の香りが立って吸収も良くなるとされています。
飲み忘れた場合は、気づいた時点で服用し、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばしてください。
2回分を一度に飲むことは避けるべきです。
服用前に知っておきたい副作用や注意すべき点
桂枝加芍薬湯は比較的安全性の高い漢方薬とされていますが、体質や体調によっては副作用が起こる可能性もゼロではありません。
医薬品である以上、服用を開始する前には、どのような副作用のリスクがあるのか、また、どのような場合に注意が必要なのかを理解しておくことが大切です。
特に、他の薬を服用している場合や、持病がある場合、妊娠・授乳中の場合は、自己判断で服用を始めず、必ず医師や薬剤師、登録販売者に相談することが求められます。
安全に使用するためにも、添付文書をよく読み、定められた用法・用量を守りましょう。
事前に確認しておきたい主な副作用
桂枝加芍薬湯の服用によって、まれに副作用が起こることがあります。
比較的報告が多いのは、皮膚の発疹、発赤、かゆみといった過敏症状です。
このような症状が現れた場合は、服用を中止し、医師や薬剤師に相談が必要です。
また、ごくまれに重篤な副作用として「偽アルドステロン症」や「ミオパチー」が報告されています。
偽アルドステロン症の初期症状は、手足のだるさ、しびれ、つっぱり感、こわばりに加えて、力が抜ける感じ、筋肉痛などです。
これらは、配合されている甘草(カンゾウ)という生薬に関連するもので、血圧の上昇やむくみ、カリウム値の低下を引き起こす可能性があります。
体に異常を感じた際は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
妊娠中や持病がある場合に服用する際の注意点
妊娠中または妊娠している可能性のある女性が桂枝加芍薬湯を服用する際は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用されるため、必ず事前に医師に相談してください。
また、高齢者や高血圧、心臓病、腎臓病などの持病がある人も注意が必要です。
特に、甘草を含む他の漢方薬やグリチルリチン酸を含む製剤を併用すると、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなるため、使用中の薬はすべて医師や薬剤師に伝えることが重要です。
アレルギー体質の人も、配合されている生薬に対して過敏反応を示す可能性があるため、慎重な服用が求められます。
しぶり腹と漢方薬に関するよくある質問
しぶり腹の改善のために漢方薬を検討する際、効果が現れるまでの期間や、市販薬と処方薬の違いなど、さまざまな疑問が浮かぶことがあります。
特に、下痢や腹痛といったデリケートな症状に関わるため、安全性や継続性について不安を感じる人も少なくありません。
ここでは、しぶり腹と漢方薬の服用に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
治療を始める前の不安解消や、服用中の疑問解決の参考にしてください。
効果を実感できるまでどのくらいの期間が必要ですか?
漢方薬の効果が現れるまでの期間は、症状の種類や個人の体質、生活習慣などによって大きく異なります。
急性の腹痛や下痢のような症状であれば、数回の服用で変化を感じることもありますが、しぶり腹のような慢性的で体質が関わる不調の場合、効果を実感するまでには一定の時間が必要です。
一般的には、まず1〜2週間ほど服用を続けてみて、症状に何らかの変化があるかを確認します。
体質改善を目的とする場合は、少なくとも1ヶ月程度は継続することが一つの目安とされています。
もし長期間服用しても改善が見られない場合は、薬が合っていない可能性もあるため、専門家に相談してください。
病院で処方される漢方薬と市販薬では何が違いますか?
病院で医師が処方する医療用漢方製剤と、ドラッグストアなどで購入できる一般用漢方製剤(市販薬)は、基本的には同じ生薬から作られています。
主な違いは、有効成分の含有量と、処方の目的にあります。
医療用は医師の診断に基づき、特定の患者の症状や体質に合わせて処方されるため、市販薬よりも成分量が多く含まれている場合があります。
一方、市販薬は、多くの人が安全に使用できるよう、効き目が穏やかになるように成分量が調整されていることが一般的です。
どちらを選ぶかは、症状の重さや、専門家による診断を希望するかどうかによって決まります。
まずは市販の漢方薬を試したいという選択も可能です。
長期間にわたって服用を続けても問題ありませんか?
漢方薬は体質改善を目的として長期間服用することがありますが、自己判断で漫然と続けることは推奨されません。
もし1ヶ月程度服用しても効果が感じられない場合は、その漢方薬が体質に合っていない可能性があります。
また、長期間の服用は、まれに起こる副作用のリスクを高めることも考えられます。
特に甘草を含む漢方薬を長期間服用する際は、定期的に医師や薬剤師の診察を受け、体の状態を確認してもらうことが安全につながります。
症状の変化に応じて、処方の見直しや服用の中止を検討することが重要です。
まとめ
繰り返す腹痛や残便感を伴うしぶり腹は、生活の質を大きく低下させるつらい症状です。
このような不調に対し、体全体のバランスを整えることで改善を目指す漢方薬は、有効なアプローチの一つです。
特に「桂枝加芍薬湯」は、虚弱体質でストレスを感じやすい人のしぶり腹や下痢に適した漢方薬であり、ツムラやクラシエから市販薬も販売されているため、比較的手軽に試すことができます。
漢方薬を服用する際は、自分の体質や症状に合っているかを見極め、正しい用法・用量を守ることが大切です。
