生理前にガスが溜まる・お腹が張る原因は?漢方薬で対策しよう

生理前にガスが溜まる・お腹が張る原因は?漢方薬で対策しよう 漢方

生理が近づくと、なぜかお腹が張る、ガスが溜まる感じがして苦しい、といった悩みを抱えている方は少なくありません。
これは月経前症候群(PMS)の症状の一つと考えられます。

この記事では、生理前にお腹が張ってガスが溜まる原因を西洋医学と東洋医学の両面から解説し、体質に合わせた漢方薬での対策や、今日から始められるセルフケアの方法を紹介します。

なぜ生理前にガスが溜まりお腹が張るのか?考えられる3つの原因

生理前になると決まって起こるお腹の張りやガス溜まりは、女性ホルモンの変動が大きく関係しています。
特に排卵後から生理前にかけて、体にさまざまな変化が起こり、腸の働きに影響を与えます。

ここでは、その主な原因として考えられる3つのメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

原因1:黄体ホルモン(プロゲステロン)の増加による腸の動きの低下

排卵後から生理前にかけては、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が活発になります。
このホルモンには、妊娠を維持するために子宮の収縮を抑える働きがありますが、同時に腸のぜん動運動も抑制してしまいます。
腸の動きが鈍くなると、便が腸内に留まる時間が長くなり、便秘になったり、腸内で異常発酵が起こりやすくなったりします。

その結果、ガスが発生し、お腹の張りにつながるのです。
また、プロゲステロンは皮脂の分泌を促す作用もあるため、この時期はニキビができやすいと感じる人もいます。

原因2:自律神経の乱れによる消化機能の不調

生理前のホルモンバランスの大きな変動は、心身の状態をコントロールする自律神経にも影響を及ぼします。
自律神経は、活動時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経から成り立っており、胃や腸の働きもこの二つの神経がバランスを取りながら調整しています。

しかし、ホルモンの影響で自律神経が乱れると、消化機能のコントロールがうまくいかなくなり、胃もたれや消化不良を引き起こします。
その結果、食べ物が十分に消化されずに腸へ送られ、ガスが発生しやすくなることがあります。

原因3:骨盤内の血行不良(うっ血)

生理前は、子宮内膜を厚くしたり、出産に備えたりするために骨盤内に血液が集まりやすくなります。
そのため、骨盤周辺の血流が滞りやすい「うっ血」という状態になりがちです。
骨盤内がうっ血すると、すぐ近くにある腸の動きにも影響を与え、ぜん動運動を鈍くさせる一因となります。
腸の動きが悪くなることで、便やガスが排出されにくくなり、お腹の張りを引き起こします。

また、血行不良は冷えや下半身のむくみといった他の不調の原因にもなり、お腹の張りと同時にこれらの症状を感じる人も少なくありません。

漢方で考えるお腹の張りの原因は「気」と「血」の滞り

東洋医学である漢方では、私たちの体は「気」「血」「水」の3つの要素がバランスを取りながら巡っていると考えます。
これらのバランスが崩れると、さまざまな不調が現れるとされています。

生理前のお腹の張りは、特に生命エネルギーである「気」や、血液とその働きを指す「血」の流れが滞ることが主な原因と捉えられています。

ストレスで気の巡りが悪くなる「気滞(きたい)」

気は生命活動を支えるエネルギーであり、体内をスムーズに巡ることで心身の機能を正常に保っています。
しかし、ストレスや緊張、不安など精神的な負担がかかると、気の巡りが滞る気滞という状態に陥ります。

気は体の機能を動かす原動力であるため、気滞になると消化管の働きも低下し、食べ物の消化やガスの排出がうまくいかなくなり、お腹の張りやゲップ、おならが増えるといった症状が現れます。
また、イライラや気分の落ち込み、喉のつかえ感などを伴うことも多く、精神的な不調と連動しやすいのが特徴です。

血行不良で血液が滞る「瘀血(おけつ)」

血は全身に栄養を運び、体を潤す役割を担っています。
この血の流れが滞った状態を瘀血と呼びます。
生理前は骨盤内に血液が集中しやすいため、瘀血になりやすい時期です。
血行が悪くなると、腸の動きも鈍くなり、便秘や下腹部の痛み、お腹の張りを引き起こします。

瘀血のサインとしては、唇や歯茎の色が暗くなる、目の下にクマができやすい、肩こりがひどい、月経血に塊が混じるといった特徴が見られます。
これらの症状がある場合、血の巡りを改善することが不調の解消につながります。

体の冷えが不調を招く「寒邪(かんじゃ)」

漢方では、冷えは「寒邪」と呼ばれ、万病のもとと考えられています。
体が冷えると、血管が収縮して血行が悪くなり、前述した「瘀血」の状態を悪化させます。
また、エネルギーである「気」の巡りも滞りやすくなるため、「気滞」を引き起こす原因にもなります。

特にお腹が冷えると、胃腸の消化機能そのものが直接的に低下し、消化不良や下痢、お腹の張りを招きます。
生理前の不調を悪化させないためには、体を冷やさないように心がけ、気や血の流れをスムーズに保つことが重要です。

【体質別】生理前のお腹の張りに効果が期待できる漢方薬

漢方薬は、現れている症状だけでなく、その人の体質や全身の状態を総合的に判断して選ばれます。
同じお腹の張りという症状でも、原因が異なれば適した薬も変わってきます。

ここでは、生理前のお腹の張りに悩む方に向けて、代表的な体質と、それぞれに合った漢方薬をいくつか紹介します。
自分に合ったものを見つけるための参考にしてください。

イライラしやすくお腹が張る人には「加味逍遙散(かみしょうようさん)」

ストレスを感じやすく、生理前になると特にイライラしたり、気分が落ち込んだりする人に適した漢方薬です。
気の巡りを改善する「気滞」を解消する働きがあり、自律神経のバランスを整えて精神的な不調を和らげます。

同時にお腹の張りや胸の張り、頭痛、肩こりといった身体的な症状にもアプローチします。
体力は中等度以下で、のぼせ感や足の冷えを伴うこともあります。
精神的なストレスが原因でお腹の不調が起こりやすいタイプの人は、この漢方薬が合う可能性があります。

冷えや血行不良が気になる人には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」

色白で体力がなく、冷え性で疲れやすい、むくみやすいといった特徴がある人に用いられることが多い漢方薬です。
血行を促進して体を温める作用と、余分な水分の排出を助ける作用があります。

血の巡りが悪い「瘀血」と、水分代謝の異常である「水滞」を改善することで、生理前の下腹部痛やお腹の張り、めまい、立ちくらみ、むくみなどの症状を和らげます。
特に、冷えが原因でお腹の不調が悪化するタイプの人に適しています。

便秘気味で下腹部痛がある人には「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」

比較的体力があり、のぼせやすい一方で足は冷える「冷えのぼせ」の傾向がある人に適しています。
血の巡りが滞る「瘀血」を改善する代表的な漢方薬で、骨盤内の血行を良くすることで、お腹の張りや生理痛、便秘、月経不順などを改善に導きます。

月経血にレバー状の塊が混じる、肩こりや頭痛、肌荒れが気になる人にも用いられます。
生理前に下腹部が重く痛むようなお腹の張りに悩む場合は、この処方が考えられます。

胃腸が弱く冷えやすい人には「大建中湯(だいけんちゅうとう)」

体力がなく、お腹が冷えやすい虚弱体質の人に用いられる漢方薬です。
胃腸を内側から温め、その働きを活発にすることで、消化機能を高めます。
腸のぜん動運動を整える働きがあり、冷えによる腹痛やお腹の張り、ガスの溜まりを改善します。

手術後の腸閉塞の予防にも使われることがあります。
食が細く、疲れやすい人が、お腹にガスが溜まってゴロゴロと鳴るような場合に適しています。
体を温めることで、全身の不調を改善に導きます。

漢方とあわせて試したい!お腹の張りを和らげるセルフケア

漢方薬で体質改善を目指すと同時に、日々の生活習慣を見直すことも、生理前のお腹の張りを和らげるためには非常に重要です。
薬の効果を高め、不快な症状を予防するためにも、生活の中に手軽に取り入れられるセルフケアを実践してみましょう。

ここでは、特におすすめの4つの方法を紹介します。

お腹周りを温めて血行を良くする

お腹が冷えると、胃腸の働きが鈍くなり、血行も悪化してしまいます。
腹巻きやカイロを使ったり、ブランケットをかけたりして、お腹周りを意識的に温めるようにしましょう。
また、飲み物は常温や温かいものを選び、体を内側から温めることも効果的です。

ゆっくりと湯船に浸かる入浴も、全身の血行を促進し、心身のリラックスにつながります。
血流が良くなることで、腸のぜん動運動が活発になり、ガスの排出が促され、お腹の張りの緩和が期待できます。

ガスが発生しやすい食べ物の摂取を控える

食べ物によっては、腸内でガスを発生させやすいものがあります。
さつまいもなどの芋類、ごぼう、豆類、きのこ類といった食物繊維が豊富な食材は、腸内細菌によって分解される際にガスを発生させます。

また、炭酸飲料や、消化に時間がかかる脂っこい食事、早食いによって空気をたくさん飲み込んでしまうこともガスの原因となります。
生理前のお腹が張りやすい時期は、これらの食品や習慣を少し控えるように意識すると、不快な症状を軽減できる可能性があります。

軽いストレッチで骨盤周りの血流を促す

長時間同じ姿勢でいることが多いと、骨盤周りの筋肉が硬くなり、血行が悪化しやすくなります。
特にデスクワークの人は、定期的に立ち上がって体を動かすことを心がけましょう。
骨盤周りの血流を促すためには、軽いストレッチが有効です。

例えば、四つん這いになって背中を丸めたり反らしたりする「猫のポーズ」は、腹部を優しく刺激し、腸の動きを助けます。
また、ウォーキングなどの軽い有酸素運動も全身の血行促進に役立ちます。
無理のない範囲で、体を動かす習慣を取り入れましょう。

アロマなどでリラックスする時間を作る

ストレスは自律神経のバランスを乱し、胃腸の働きに直接影響を与えます。
生理前は特に心身がデリケートになるため、意識的にリラックスする時間を作ることが大切です。
ラベンダーやカモミールといったリラックス効果のあるアロマオイルの香りを楽しんだり、好きな音楽を聴きながらハーブティーを飲んだりするのも良いでしょう。

ゆっくりと深呼吸をするだけでも、副交感神経が優位になり、心と体の緊張がほぐれます。
自分に合ったリラックス法を見つけ、心穏やかに過ごす時間を確保してください。

つらい症状が続くなら婦人科や漢方外来の受診も検討しよう

セルフケアを試したり、市販の漢方薬を服用したりしても、お腹の張りが改善されない場合や、痛みがひどく日常生活に支障が出るような場合は、専門の医療機関を受診することをおすすめします。
婦人科では、お腹の張りの原因が子宮筋腫や卵巣の病気といった他の疾患でないかを確認してもらえます。

特に問題がない場合は、月経前症候群(PMS)の治療として、低用量ピルや症状を和らげる薬が処方されることもあります。
また、漢方外来や漢方薬局では、専門家が詳しい問診を通して、より個人の体質に合った漢方薬を選んでくれます。
自己判断で悩まず、専門家の力を借りることも検討してください。

まとめ

生理前にお腹が張りガスが溜まる原因は黄体ホルモンの影響による腸の動きの低下、自律神経の乱れ、骨盤内の血行不良などが考えられます。
漢方の視点ではこれらの不調はストレスによる気滞や血行不良である瘀血、体の冷えなどが関係していると捉えます。

対策としては自分の体質に合った漢方薬を選ぶことが有効です。
例えばイライラしやすいなら加味逍遙散、冷えが気になるなら当帰芍薬散などが選択肢となります。
さらに、お腹を温める、食生活を見直す、軽い運動を取り入れるといったセルフケアを組み合わせることでより症状の緩和が期待できます。

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