膝に水が溜まる症状と漢方薬:変形性膝関節症への効果も解説
漢方
膝に水が溜まって痛む、あるいは腫れて動かしにくいといった症状は、日常生活に大きな支障をきたします。
病院で水を抜いても繰り返してしまう場合、体質から見直す漢方医学のアプローチが有効な選択肢となり得ます。
この記事では、膝に水が溜まる原因を西洋医学と漢方医学の両面から解説し、症状や体質に合わせた漢方薬、変形性膝関節症への効果、そして日常生活で実践できるセルフケアについて詳しく紹介します。
そもそも膝に水が溜まるのはなぜ?関節液が増える原因
膝関節は「関節包」という袋に包まれており、その内側は滑膜という組織で覆われています。
滑膜からは、関節の動きを滑らかにする潤滑油の役割を持つ「関節液」が分泌されています。
通常、関節液は一定量に保たれていますが、変形性膝関節症や関節リウマチ、外傷などによって関節内で炎症が起こると、滑膜が刺激されて関節液が過剰に分泌されます。
この過剰に分泌された関節液が、一般的に「膝の水」と呼ばれるものです。
膝に水がたまると、関節包が膨らんで膝が腫れ上がり、内部の圧力が上昇することで痛みや動かしにくさを引き起こします。
つまり、膝の水は炎症の結果として生じる症状の一つなのです。
病院で行われる膝の水を抜く治療法とその後のケア
病院では膝に溜まった水による痛みや腫れを和らげるため注射器で関節液を抜き取る「関節穿刺」という処置が行われることがあります。
関節液を抜くことで関節内の圧力が下がり一時的に症状は楽になります。
しかしこれは対症療法であり膝の水の原因である関節内の炎症が治まらない限り再び水が溜まってしまうケースも少なくありません。
そのため水を抜いた後には炎症を抑える目的でヒアルロン酸やステロイドの注射消炎鎮痛剤の内服薬や湿布薬などが用いられます。
根本的な改善のためにはこれらの治療と並行してリハビリテーションや生活習慣の見直しを行い膝への負担を減らすことが重要です。
漢方医学で考える「膝に水が溜まる」2つの原因
漢方医学では、膝に水がたまる現象を体全体のバランスの乱れが引き起こす症状と捉えます。
膝の関節だけに問題があるのではなく、体質的な要因が根本にあると考えるため、個々の状態に合わせた漢方薬を用いて全身の状態を整えることを目指します。
膝に水がたまる主な原因として、「水滞(すいたい)」と「瘀血(おけつ)」という2つの病態が挙げられます。
これらは体内の水分や血液の流れが滞っている状態を示しており、症状の根本改善にはこれらの体質を改善することが不可欠です。
体内の水分バランスの乱れを示す「水滞(すいたい)」
「水滞」とは、体内の水分代謝が滞り、余分な水分が排出されずに特定の場所に溜まってしまう状態を指します。
膝に水がたまるのは、この停滞した水分が関節部分にあふれ出た結果と考えられます。
水滞は、胃腸機能の低下による水分吸収・排泄能力の乱れ、体の冷え、湿度の高い環境などが原因で引き起こされます。
膝の腫れや重だるさに加え、体全体のむくみ、めまい、頭が重い感じ、軟便や下痢といった全身症状を伴うことも多いのが特徴です。
このような体質の場合は、体の水分循環を促し、余分な水分を排出させる作用を持つ漢方薬を用いて改善を図ります。
血行不良が痛みを引き起こす「瘀血(おけつ)」
「瘀血」とは、血の流れが滞り、いわゆるドロドロ血になった状態のことです。
血行が悪くなると、関節組織に十分な栄養や酸素が行き渡らず、老廃物や痛み物質が溜まりやすくなるため、慢性的な痛みの原因となります。
膝に水がたまる症状に瘀血が関わっている場合、ズキズキとした刺すような強い痛み、関節のこわばり、皮膚の色が黒ずむといった特徴が見られることがあります。
打撲などの外傷後や、体の冷え、ストレスなどが瘀血を引き起こす要因となり、前述の水滞と併発することも少なくありません。
治療には、血行を促進して滞りを解消する漢方薬が用いられます。
【症状・体質別】膝に水が溜まる際に用いられる代表的な漢方薬
膝に水が溜まる症状に対する漢方治療では、画一的な同じ漢方薬はなく、個人の体質や症状の現れ方を詳しく見極めて漢方薬を使い分けます。
根本原因である「水滞」や「瘀血」の状態はもちろん、痛みや腫れの程度、熱感の有無、冷えを伴うか、体力の有無などを総合的に判断し、その人に最も合った漢方薬が選ばれます。
ここでは、代表的な3つのタイプ別に、よく用いられる漢方薬を紹介します。
むくみや冷えも気になる方向けの漢方薬
体が冷えることで水分代謝が悪化し、膝だけでなく全身がむくみやすいというタイプには、体を温めながら余分な水分を排出する漢方薬が適しています。
代表的な処方には「防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)」があります。
この漢方薬は、色白で疲れやすく、汗をかきやすいといった体質の方の、むくみを伴う関節の腫れや痛みに効果的です。
また、特に下半身の冷えが強く、貧血傾向のある女性の場合は、血行を促し体を温める「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が用いられることもあります。
これらの漢方薬は、水分代謝と血行の両方を改善し、冷えからくる症状を和らげます。
痛みが強く、関節に熱感がある場合の漢方薬
膝関節の炎症が強く、赤く腫れて熱っぽさを感じ、ズキズキと強く痛むような急性期の症状には、体の熱を冷まし、炎症を鎮める作用を持つ漢方薬が用いられます。
例えば、「越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)」は、比較的体力があり、のどが渇きやすい方の関節炎やむくみに適した漢方薬です。
また、「薏苡仁湯(よくいにんとう)」は、関節に熱感と痛みがあり、特に雨の日など湿気が多い日に症状が悪化するような場合に効果を発揮します。
これらの漢方薬は、過剰な熱や水分を取り除くことで、強い炎症症状を速やかに緩和することを目指します。
血行を促進して慢性的な痛みを和らげる漢方薬
血行不良(瘀血)が原因で、長期間にわたって鈍い痛みが続いたり、関節がこわばったりする慢性的な症状には、血の巡りを良くして滞りを解消する漢方薬が有効です。
代表的な漢方薬としては「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」が挙げられ、瘀血が関わる様々な痛みに応用されます。
また、「疎経活血湯(そけいかっけつとう)」は、血行を改善する生薬と痛みを和らげる生薬が豊富に配合されており、中高年の方の慢性的な関節痛や神経痛によく用いられる漢方薬です。
これらの処方は、痛み物質の排出を助け、関節組織に栄養を届けることで痛みを和らげます。
変形性膝関節症による膝の痛みに対する漢方のアプローチ
変形性膝関節症は、加齢や体重の増加などによって膝の軟骨がすり減り、骨が変形して炎症や痛みを引き起こす疾患です。
漢方では、この状態を単なる関節の老化と捉えるだけでなく、生命エネルギーの源である「腎」の衰えや、「気・血・水」のバランスの乱れが深く関わっていると考えます。
そのため、治療アプローチも痛みを抑えるだけでなく、体全体の機能を高めることを目指します。
例えば、足腰の衰えを補いながら痛みやしびれを和らげる「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」などが用いられます。
このように、体質を根本から改善することで、痛みの緩和だけでなく、病気の進行を緩やかにし、生活の質を維持することを目指します。
漢方薬の効果を高めるために日常でできる3つのセルフケア
膝に水が溜まる症状を改善するためには、漢方薬を服用するだけでなく、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。
食事や運動などのセルフケアは、体質改善を促し、漢方薬の効果を最大限に引き出す助けとなります。
ここでは、漢方医学の観点からも特に大切とされる「食事」「運動」「体を冷やさない工夫」という3つのポイントについて、具体的な実践方法を紹介します。
食生活の見直しで体内の水分バランスを整える
膝に水がたまる原因の一つである「水滞」は、食生活と深く関わっています。
塩辛いものや甘いもの、脂っこい食事、アルコールの過剰摂取は、体内に余分な水分を溜め込みやすくするため、控えるように心がけます。
また、冷たい飲食物は胃腸の働きを低下させ、水分代謝を悪化させる原因になるので、なるべく常温や温かいものを摂ることが望ましいです。
食事には、利尿作用があり余分な水分を排出するのを助ける豆類や海藻類、ウリ科の野菜などを取り入れると良いでしょう。
さらに、体を温める作用のある生姜やネギ、カボチャなどを積極的に活用し、バランスの取れた食事で胃腸を健やかに保つことが大切です。
適度な運動で膝周りの筋肉をサポートする
膝の痛みがあると動くのが億劫になりがちですが、安静にしすぎると膝を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋など)が衰え、さらに関節が不安定になり症状が悪化する可能性があります。
膝周りの筋力を維持・強化することは、関節への負担を減らし、安定させるために不可欠です。
痛みがある場合は無理をせず、プールでのウォーキングや、椅子に座ったまま足を伸ばして上げ下げする運動など、膝に負担の少ないものから始めましょう。
軽いストレッチで関節の柔軟性を保つことも有効です。
適度な運動は全身の血行を促進する効果もあり、痛みの原因となる物質の排出を助け、症状の緩和につながります。
体を冷やさない工夫で血行を改善する
体の冷えは、血管を収縮させて血行を悪化させ、痛みを増強させる大きな要因です。
また、水分代謝も低下させるため、むくみや水の溜まりやすい状態を助長します。
漢方薬による治療効果を高めるためにも、体を温める生活習慣を徹底しましょう。
シャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくりと浸かって体を芯から温める習慣がおすすめです。
服装では、腹巻きやレッグウォーマー、サポーターなどを活用し、特にお腹や腰、足首を冷やさないように注意します。
夏場の冷房が効いた室内では、上着を一枚羽織る、ひざ掛けを使うなどの工夫も行い、一年を通して体を冷えから守る意識を持つことが重要です。
まとめ
膝に水が溜まる症状に対し、西洋医学では関節の炎症を抑え、水を抜くといった直接的な処置が中心となります。
一方で漢方医学は、その根本原因を「水滞」や「瘀血」といった体質的なバランスの乱れと捉え、個々の状態に合わせて漢方薬を選び、体全体を整えることでアプローチします。
漢方薬による体質改善に加えて、水分バランスを整える食生活、膝周りの筋力を保つ適度な運動、そして血行を促進するために体を冷やさない工夫といったセルフケアを日々の生活に取り入れることが、症状の根本的な改善と再発予防に役立ちます。
膝の水の悩みに対して、漢方という視点からのアプローチも有効な選択肢の一つです。
