慢性上咽頭炎と漢方薬:選び方や効果、注意点を解説

慢性上咽頭炎と漢方薬:選び方や効果、注意点を解説 漢方

なかなか改善しない喉の違和感や後鼻漏といった慢性上咽頭炎の症状に、漢方薬が有効な選択肢となることがあります。
西洋医学の治療とは異なり、漢方は体全体のバランスを整えることで、症状の根本的な改善を目指すアプローチを取ります。

この記事では、慢性上咽頭炎の基本情報から、なぜ漢方薬が効果的なのか、そして症状や体質に合わせた漢方薬の選び方、服用時の注意点、日常生活でできるセルフケアまでを詳しく解説します。

まずは知っておきたい慢性上咽頭炎の基本情報

慢性上咽頭炎は、鼻の奥にある上咽頭という部分に、継続的な炎症が起きている状態を指します。
風邪などをきっかけに起こる急性の炎症とは異なり、慢性化すると多彩な症状が現れ、長期にわたって不調が続くことが特徴です。

原因がはっきりしないことも多く、さまざまな治療を試してもすっきりと改善しないケースも少なくありません。
まずは、この疾患がどのような症状を引き起こし、なぜ起こるのかという基本的な情報を理解することが大切です。

喉の痛みだけじゃない?慢性上咽頭炎の主な症状

慢性上咽頭炎の症状は、喉の痛みや違和感だけにとどまりません。
鼻と喉の境界にある上咽頭の炎症は、周辺の器官にも影響を及ぼします。
代表的な症状に、鼻水が喉に落ちる後鼻漏や、それに伴う咳、痰のからみがあります。
炎症が耳管や鼻腔に広がると、耳の閉塞感や鼻づまり、副鼻腔炎などを引き起こすこともあります。

さらに、上咽頭には自律神経が密集しているため、炎症が刺激となって頭痛、肩こり、めまい、全身の倦怠感といった、一見すると喉とは関係のないような全身症状が現れることも少なくありません。

なぜ繰り返し不調が起こるのか?その原因を解説

上咽頭は、呼吸の際に空気の通り道となるため、ウイルスや細菌、ホコリ、アレルギー物質といった外からの刺激に常にさらされています。
通常であれば、体の免疫機能によってこれらの異物は排除されますが、疲労やストレス、体の冷え、口呼吸などによって免疫力が低下すると、上咽頭で炎症が起こりやすくなります。

この急性的な炎症が十分に治りきらないまま、繰り返し刺激を受け続けることで炎症が慢性化し、不調が続く状態に陥ります。
特に、自律神経の乱れは上咽頭の血流を悪化させ、炎症を長引かせる大きな要因となります。

なぜ慢性上咽頭炎に漢方薬がアプローチできるのか

西洋医学が上咽頭の炎症そのものを抑える局所的な治療を主眼とするのに対し、東洋医学の考え方に基づく漢方薬は、体全体の状態をみて、なぜ炎症が起きやすいのかという根本的な原因にアプローチします。
症状を引き起こしている体質的な偏りを整えることで、炎症が起こりにくい体づくりを目指すのが特徴です。

そのため、長引く不調や、全身に及ぶ多彩な症状に対して、漢方薬が有効な手段となることがあります。

炎症を抑えながら体全体のバランスを整える

東洋医学では、人の体は「気・血・水」の3つの要素がバランス良く巡ることで健康が保たれていると考えます。
慢性上咽頭炎は、このバランスが崩れることで生じると捉えられます。
例えば、血行が悪くなる「瘀血」、免疫力が低下した「気虚」、ストレスで気の巡りが滞る「気滞」などが、上咽頭の粘膜を弱らせ、炎症を引き起こす原因となります。

漢方薬は、炎症を鎮める生薬と、これらの体質的な問題を改善する生薬を組み合わせた薬です。
体の内側からバランスを整え、自然治癒力を高めることで、症状の根本的な改善を図ります。

西洋医学の治療と漢方薬を併用する考え方

慢性上咽頭炎の治療において、西洋医学と漢方薬は対立するものではなく、それぞれの長所を活かして併用することが可能です。
例えば、耳鼻咽喉科で行われるBスポット治療(EAT)は、塩化亜鉛を直接上咽頭に塗布することで、炎症を強力に鎮める効果が期待できます。
この局所的な治療と並行して、体質改善を目的とした漢方薬を服用することで、相乗効果が期待できます。

特にストレスが強く関与している場合は、気の巡りを改善する四逆散などが選ばれることがあります。
両方のアプローチを組み合わせることで、効果を高め、再発の予防につなげられます。

【症状・体質別】自分に合った漢方薬の選び方

漢方薬は、同じ病名であっても個人の体力や症状の現れ方といった「証」に合わせて選ぶことが重要です。
自己判断で選ぶのではなく、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、自分の体質に合ったものを選ぶ必要があります。

例えば、ストレスによる喉のつかえ感や異物感には、気の巡りを改善する半夏厚朴湯が用いられることがあります。
ここでは、代表的な症状や体質に応じた漢方薬の例を紹介します。

赤みや痛みが強い場合に適した漢方薬

上咽頭の炎症が強く、喉の赤みや痛みがはっきりしている場合は、炎症や熱を発散させる作用を持つ漢方薬が選択肢となります。
比較的体力があり、風邪のひきはじめのように悪寒や頭痛、肩こりを伴う場合には、葛根湯が用いられることがあります。
これは体を温めて汗とともに熱を発散させることで、炎症を和らげる働きをします。

さらに体力が充実しており、悪寒や体の節々の痛みが強い場合には、麻黄湯が適応となることも考えられます。
これらの漢方薬は、体の抵抗力を高めながら、急性の強い症状を鎮めることを目的とします。

後鼻漏や鼻づまりが気になる場合に役立つ漢方薬

慢性上咽頭炎に伴って、粘り気のある鼻水が喉に落ちる後鼻漏や、しつこい鼻づまりが続く場合には、鼻や気道の粘膜の炎症を鎮め、潤いを与える漢方薬が用いられます。
例えば、粘り気の強い黄色の痰や鼻水が出て、咳を伴うような場合に清肺湯が選ばれることがあります。

この漢方薬は、気管支の熱を冷まし、粘膜を潤すことで痰を切れやすくし、呼吸を楽にする働きが期待されます。
このように、鼻や気道の分泌物の状態を改善し、排出を促すことで、後鼻漏や鼻づまりといった不快な症状の緩和を目指します。

疲労感やめまいなど自律神経の乱れも感じる方向けの漢方薬

慢性上咽頭炎が長引き、喉の症状に加えて強い疲労感や倦怠感、めまい、不安感といった自律神経の乱れに伴う不調が見られる場合があります。
このような場合は、体のエネルギーである「気」や、体を潤す「陰」を補う漢方薬が適しています。
例えば、乾いた咳が続き、喉の乾燥感や痰の切れが悪い場合に用いられる麦門冬湯は、肺を潤して咳を鎮める働きがあります。

体力や潤いが不足している状態を改善し、心身のバランスを整えることで、上咽頭の症状だけでなく、付随する全身の不調を和らげることを目指します。

漢方薬を服用する際に知っておきたい注意点

漢方薬は天然の生薬から作られており、体に優しいイメージがありますが、医薬品であることに変わりはありません。
効果を正しく得て、安全に使用するためには、いくつかの注意点を理解しておくことが重要です。

特に、漢方薬は個人の体質に合わせて選ばれるため、自己判断での服用は避けるべきです。
ここでは、服用を開始する前に知っておきたい基本的な注意点について解説します。

購入前に必ず医師や薬剤師に相談する

漢方薬を選ぶ上で最も重要なのは、専門家である医師や薬剤師に相談することです。
漢方薬は症状だけで選ぶのではなく、その人の体質や体力、舌の状態など、東洋医学的な診察に基づいて総合的に判断されます。
自分に合わない漢方薬を服用すると、効果がないばかりか、胃腸の不調や症状の悪化を招く可能性もあります。

市販薬を購入する場合でも、ドラッグストアにいる薬剤師に相談し、自分の症状や体質を詳しく伝えた上で、適切なアドバイスを受けることが不可欠です。
専門家の知見を借りることが、漢方治療の第一歩となります。

効果を実感するまでには一定の期間が必要

漢方薬は、症状を一時的に抑える対症療法とは異なり、体質そのものを改善していくことを目的とするため、効果が現れるまでに時間がかかる場合があります。
風邪などの急性疾患であれば数日の服用で変化を感じることもありますが、慢性上咽頭炎のように長期間続いている不調の場合、効果を実感するまでには数週間から数ヶ月単位での継続的な服用が必要となるのが一般的です。

すぐに効果が出ないからといって諦めずに、きちんと服用を続けることが大切です。
服用中に気になる変化があれば、自己判断で中断せず、処方した医師や、漢方薬を選んでもらった薬剤師に相談してください。

副作用のリスクと初期症状について

漢方薬にも副作用のリスクは存在します。
比較的多いものとしては、食欲不振、胃の不快感、下痢、便秘、皮膚の発疹やかゆみなどが挙げられます。
これらの症状は、薬が体質に合っていない可能性を示すサインです。

また、ごく稀ですが、間質性肺炎や肝機能障害といった重篤な副作用が起こることもあります。
特に、多くの漢方薬に含まれる甘草という生薬は、長期的に服用すると偽アルドステロン症を引き起こし、むくみや血圧上昇、脱力感などが現れる可能性があります。
服用を始めてから、普段と違う体調の変化を感じた際には、直ちに服用を中止し、医師や薬剤師に連絡してください。

漢方の効果をサポートする日常生活のセルフケア

漢方薬による体質改善の効果をより高めるためには、日々の生活習慣を見直すことが欠かせません。
食事や睡眠、運動といった生活の基本が乱れていると、せっかく漢方薬を服用しても十分な効果が得られないことがあります。

漢方薬の服用と並行してセルフケアを実践することで、治療効果を促進し、症状が再発しにくい体づくりを目指すことができます。
ここでは、今日から始められる簡単なセルフケアを紹介します。

体を冷やさず血行を促進する工夫

東洋医学では、体の冷えは「万病のもと」とされ、血行不良を招いて免疫力の低下や炎症の悪化につながると考えられています。
特に、空気が乾燥し気温が下がる冬は、体を冷やさない工夫が重要です。

日常的にシャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かって体を芯から温める習慣をつけましょう。
服装は、首、手首、足首といった「首」がつく部分を温めると効果的です。
また、冷たい飲み物や食べ物はなるべく避け、温かいものを意識して摂るように心がけます。
ウォーキングなどの軽い運動を習慣にすることも、全身の血行促進に役立ちます。

自律神経を整えるための睡眠と休息

慢性的なストレスや睡眠不足は、自律神経のバランスを乱し、上咽頭の血流を悪化させて炎症を長引かせる大きな要因です。
自律神経の働きを整えるためには、質の高い睡眠と十分な休息が不可欠です。
毎日決まった時間に就寝・起床することを心がけ、体内リズムを整えましょう。

就寝前はスマートフォンやパソコンの使用を控え、照明を暗くするなどリラックスできる環境を作ることが大切です。
日中、疲れを感じたときは無理をせず、短時間でも休憩を取るように意識します。
心身を休ませることが、結果的に免疫機能を正常に保つことにつながります。

鼻うがいで上咽頭を清潔に保つ方法

鼻うがいは、上咽頭に付着したウイルス、細菌、ホコリなどを物理的に洗い流すことができる、非常に効果的なセルフケアです。
また、鼻や喉の粘膜の乾燥を防ぎ、潤いを与えることで、粘膜が本来持つバリア機能を高める助けにもなります。
実践する際は、必ず体液の塩分濃度に近い0.9%の生理食塩水を人肌程度のぬるま湯で作り、使用してください。

市販の鼻うがい専用キットを使うと、安全かつ簡単に行えます。
ただし、やりすぎはかえって粘膜を傷つけることがあるため、1日1〜2回程度を目安にします。
痛みや違和感がある場合は中止してください。

まとめ

慢性上咽頭炎の改善において、漢方薬は西洋医学とは異なる視点からアプローチする有効な治療法です。
局所的な炎症を抑えるだけでなく、血行不良や免疫力の低下、自律神経の乱れといった体質的な問題を改善することで、症状の根本的な解決を目指します。

漢方薬を選ぶ際には、自己判断を避け、必ず漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、自分の「証」に合った処方を受けることが重要です。
また、漢方薬の効果を高めるためには、体を温める、十分な睡眠をとる、鼻うがいを実践するといった日々のセルフケアを併せて行うことが不可欠です。

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