「人工授精」は、自然妊娠に近い治療法です

「人工授精」は、自然妊娠に近い治療法です 妊活・不妊

現在不妊治療に取り組んでいる方、あるいはこれからスタートしようとお考えの方は、「人工授精」という言葉を耳にしたことがあると思います。

「人工授精」は「AIH(Artificial Insemination of Husband)」とも呼ばれ、不妊治療の中では「タイミング療法」の次のステップで行われる治療法にあたります。

排卵の時期に合わせて、子宮内にカテーテルを挿入して精子を直接注入する方法です。
タイミング療法の場合、精液は子宮頸管に入りますが、人工授精の場合は、子宮内へ直接精液を注入することになります。

人工という単語から、人為的なイメージを持たれる方もいらっしゃると思います。
人の手を介して行われるのは子宮内に精子を注入するところまでで、卵子と精子が出会い受精するという点では、自然妊娠と相違ありません。

自然妊娠時の条件と同じように、卵管の通過性が認められていることが前提であり、また、卵管内で受精が成立しなければ妊娠することはできません。

1回のタイミング療法時の妊娠率が約3〜5%とされているのに比べて、人工授精の場合は約5〜10%とされています。
そのため、1回の人工授精では結果が出なかったということも少なくありません。

一方で、5〜6回人工授精を行っても妊娠できない場合、その後人工授精を続けても妊娠が難しいとされています。

この場合には、人工授精からさらに次のステップである体外受精などに進むことが有効とされていますが、ステップアップに踏み切る前に、不妊治療をどのように進めていくかをパートナー同士で話し合うことが大切だと言えます。

 

人工授精が適応される方

まず、人工授精時に必要な条件として、女性側に排卵があることが必須です。
排卵誘発剤を使用する場合もあります。
そして卵管の通過性が、少なくとも片側は認められている状態でなくてはいけません。

女性側に排卵があり卵管の通過性が認められた上で人工授精が適応されるケースとしては、以下のものが挙げられます。

・軽度の男性不妊

乏精子症、精子無力症など、精子の運動率や前進率が基準値よりわずかに下回る程度であれば、人工授精で妊娠できる可能性があります。

WHO(世界保険機関)が定める正常精液所見の基準(2010年改訂)は以下の通りです。
・精子濃度:1500万個以上/精液1ml中
・精子運動率:前進運動精子50%以上および高速直進運動精子25%以上

・頸管粘液分泌不全

子宮頸管粘液は、精子が子宮内へ遡上しやすいようサポートする役割を持っています。
子宮頚管粘液の量が不足していると、精子は子宮頸管内をうまく遡上することができず、子宮の中まで辿り着くことができません。
この場合、精子が子宮頸管を通らずに、直接子宮の中に入り、卵子と出会えるよう、人工授精が行われます。

ほかにも、性交障害、勃起障害(ED)などが人工授精が適応されるケースです。

また、人工授精時には精液の洗浄を行うため、良好な精子をピックアップすることができます。
精子の洗浄・濃縮によって受精率を高めることができることから、タイミング療法からのステップアップとして人工授精が適用されるのです。

 

人工授精の流れについて

問診する医師

人工授精を進める上での大まかな流れをご説明いたします。
もちろん病院やクリニックによって異なりますから、参考程度としてください。

 

 

 

 

 

・基礎体温から排卵日を予測します。

・排卵前に超音波検査やホルモン検査を行うことで、正確な排卵日を割り出します。

・人工受精当日

男性側:自宅または病院で精液を採取し、提出する。遠心処理にて洗浄、濃縮が行われます。

女性側:内診台に乗り、医師はカテーテルを用いて遠心処理した精液を子宮内に注入します。

・人工授精を終えたあとに黄体機能の低下がみられる場合には、数回に渡って黄体補充療法を行い、着床率を高めます。

・妊娠判定

人工授精を行ってから14日後に妊娠判定を行います。
血液検査および月経の有無などで妊娠しているかどうかを判断します。

 

精液の採取と洗浄の目的

人工授精は施術の当日に、男性は用手法(マスターベーション)にて精液を採取し、提出する必要があります。
精液を自宅で採取する場合、1時間以内に採取したものを提出します。

提出された精液は病院内で遠心処理が行われます。
このとき精液を洗浄することで精液中の細菌や赤血球、白血球、死滅精子、ウイルスなどを取り除くことができます。

 

人工授精におけるさまざまな心配事について

カテーテル挿入時の痛みについて

カテーテル挿入時、カテーテルが子宮頚管に当たることで一時的に痛みを感じる場合があります。
また、精子注入時、子宮が痙攣するように収縮を起こした場合や、注入した精液が卵管からつながる腹腔内に漏れ出した場合など、その刺激を痛みとして感じることがありますが、いずれの場合も安静にしていることで収まります。

 

人工授精時のリスクについて

人工授精の際、先天性異常を心配される方もいらっしゃると思いますが、人工授精をしたから可能性が高くなるということはなく、その確率は自然妊娠と変わりありません。

 

人工授精の費用について

人工授精には健康保険が適用されません。
そのため1回あたりの人工授精にかかる費用は約2〜3万円と、病院やクリニックによって異なりますから、事前に確認が必要です。

 

人工授精の考え方

手をつなぐ夫婦

自然妊娠ではない方法で妊娠するということに、不安を持たれる方もいらっしゃると思います。

人工授精とは、精子の運動率が低い方が、子宮の中に精子を入れてもらう方法です。
その後精子は、自力で卵管の先端まで泳いでいきます。
ですから、人工授精も自然妊娠と同じように考えて良いと思います。

人工授精もまた、命のバトンをつなぐ手助けだと思います。

妊娠は、男女のどちらか一方だけで成立するものではありません。

不妊治療も同様に、双方が手を取り合うことで治療を進めていきましょう。

 

 

歳森 和明 / 薬剤師 - 国際中医専門員A級

薬剤師、国際中医師、笑顔セミナー認定講師。漢方薬局三代目。おだやかで大人しく見られがちですが、サーフィン、ダイビング、トライアスロンなど身体を動かすことや、食べ歩き・旅行が大好きなアクティブ人間です。SNS(Twitter、Facebook)で漢方や健康情報、勉強会情報を随時発信しています。