肺陰虚による空咳・のどの乾燥を改善する漢方薬と薬膳

肺陰虚による空咳・のどの乾燥を改善する漢方薬と薬膳 漢方

風邪は治ったはずなのに乾いた咳だけが続いたり、常にのどが乾燥して不快感が取れなかったりする症状は、「肺陰虚」という体質が原因かもしれません。
肺陰虚とは、東洋医学において、体を潤す働きを持つ「肺」の水分が不足している状態を指します。

この記事では、肺陰虚の体質をセルフチェックする方法から、症状改善に役立つ漢方薬や日々の食事で取り入れられる薬膳、生活習慣までを解説します。

この記事でわかること
・乾いた咳やのどの不調を引き起こす「肺陰虚」のセルフチェック方法
・症状のタイプ別に適した漢方薬の種類と選び方
・食事と生活習慣で体の内側から肺を潤すためのポイント

その咳、肺の潤い不足かも?肺陰虚の体質セルフチェック

肺陰虚は、肺の潤いが不足することで、呼吸器系を中心にさまざまな乾燥症状が現れる体質です。
身体を冷まし潤す「陰液」が足りないため、体内に余分な熱がこもりやすくなる特徴もあります。
以下に挙げる項目に当てはまるものが多いほど、肺陰虚の可能性が考えられます。
自身の体調と照らし合わせて確認してみましょう。

乾いた咳が長く続いている

⬜︎肺陰虚の最も代表的な症状が、痰の絡まない乾いた咳(空咳)です。
⬜︎コンコン、ケンケンといった音が特徴で、特に夜間や明け方に悪化する傾向があります。
⬜︎肺が乾燥しているため、わずかな刺激にも敏感に反応して咳き込みやすくなります。
⬜︎一度咳が出始めると、しばらく止まらないことも少なくありません。

込み上げる咳と漢方薬については「込み上げる咳と漢方薬|喉の乾燥・痰・違和感など症状別に紹介」で詳しく紹介しています。

のどが頻繁にカラカラに渇く

水分を補給してもすぐにのどが渇き、常にイガイガとした不快感を覚えるのも特徴です。
これは、肺の潤い不足が直接的にのどの粘膜の乾燥につながるために起こります。
ひどくなると、のどに何かが張り付いているような違和感を伴うこともあります。

痰が少なく粘り気があって切れにくい

肺陰虚の場合、痰はほとんど出ないか、出ても少量で非常に粘り気が強いという特徴があります。
体内の水分が不足しているため、痰も濃縮されて硬くなり、のどにへばりついてなかなか切れません。
無理に排出しようとすると、かえって咳を悪化させる原因になります。

声がかすれやすい、または出にくい

のどの粘膜や声帯の潤いが不足することで、声がかすれたり、しゃがれたりしやすくなります。
長時間話したり、歌ったりするとすぐに声が出にくくなるのもこのタイプです。
会話の途中で声が裏返ってしまうなど、発声に関するトラブルが見られます。

手のひらや足の裏がほてる感じがする

体の潤い(陰)が不足すると、相対的に熱(陽)が過剰になり、体内に「虚熱」と呼ばれる熱がこもります。
この虚熱が、特に体の末端である手のひらや足の裏、胸の中心などにほてりを感じさせる原因となります。
夕方から夜にかけて症状が強くなる傾向があります。

夜間に寝汗をかくことがある

日中は活動によって体内に分散していた虚熱が、就寝時に体表に集まることで寝汗として現れます。
特に首筋や胸元にかくことが多く、びっしょりと濡れて夜中に目が覚めてしまうこともあります。
本人は暑さを感じていなくても、無意識のうちに汗をかいているのが特徴です。

なぜ肺は乾燥するのか?肺陰虚を引き起こす主な原因

肺陰虚は、単に空気が乾燥しているという外的要因だけでなく、体内のさまざまなバランスの乱れによって引き起こされます。
特に、全身の潤いの根源である「腎」や、栄養を全身に運ぶ「血」、そして栄養素を生み出す「胃」の働きと深く関連しており、これらの機能が低下することも肺の乾燥を招く一因となります。

加齢による体内の水分減少

年齢を重ねると、全身の潤いを蓄える「腎」の機能が自然と衰え、体内の水分量が全体的に減少します。
この体のベースとなる潤いが減ることで、呼吸器系を司る肺も乾燥しやすくなります。
特に高齢者の慢性的な咳は、この加齢による潤い不足が根本にあるケースが多く見られます。

過労やストレスによる消耗

過度な労働や睡眠不足、精神的なストレスは、体を潤す「陰」や栄養を運ぶ「血」を大量に消耗します。
陰血が不足すると、体を正常に潤すことができなくなり、結果として肺の乾燥につながります。
特に、常に緊張状態にあったり、考え事が多かったりすると、心身の消耗が激しくなりがちです。

辛いものの食べ過ぎや偏った食生活

唐辛子やニンニク、生姜などの香辛料を多用した辛い食べ物は、体を温め発汗を促す作用があるため、過剰に摂取すると体内の潤いを奪ってしまいます。
また、偏った食生活によって飲食物の消化吸収を担う胃の働きが弱ると、潤いの元となる栄養素を十分に作り出せず、肺の乾燥を助長する原因になります。

空気が乾燥する季節の影響

東洋医学では、肺は外部の空気と直接触れる臓器であり、乾燥を非常に嫌うとされています。
そのため、空気が乾燥する秋や冬、あるいはエアコンの効いた室内など、湿度の低い環境に長時間いると、外気の影響で肺の潤いが直接奪われ、肺陰虚の症状が現れたり悪化したりしやすくなります。

症状に合わせて選ぶ!肺陰虚の改善におすすめの漢方薬

肺陰虚の漢方療法では、不足した潤いを補い、肺の機能を正常に戻す「潤肺」作用のある漢方薬が用いられます。
ただし、同じ肺陰虚でも、咳の強さ、痰の状態、ほてりの有無など、現れる症状によって適した漢方薬は異なります。
ここでは、代表的な漢方薬を症状別にご紹介します。

しつこい空咳や切れにくい痰には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」

麦門冬湯は、肺を潤して咳を鎮める代表的な漢方薬です。
体力に関わらず使用でき、特に痰が少なく、のどに張り付いて切れにくい、コンコンと激しく咳き込むような場合に適しています。
のどの乾燥感を和らげ、気道を潤すことで、しつこい咳の発作を鎮める働きがあります。

風邪の後期に咳だけが長引く際にもよく用いられる漢方薬です。

体のほてりや寝汗を伴う咳には「滋陰降火湯(じいんこうかとう)」

滋陰降火湯は、肺の潤いを補う「滋陰」作用と、体内の余分な熱(虚熱)を冷ます「降火」作用を併せ持つ漢方薬です。
乾いた咳に加え、手のひらや足の裏のほてり、寝汗、のどの渇きといった虚熱の症状が顕著な場合に用いられます。
体全体の潤い不足を改善しながら、熱による不快な症状を和らげます。

のどの乾燥感や痛みが強い場合は「百合固金湯(びゃくごうこきんとう)」

百合固金湯は、肺と腎の陰を補うことで、強力に体を潤す漢方薬です。
特にのどの乾燥感が強く、ヒリヒリとした痛みや声がれが目立つ場合に適しています。
慢性的な空咳や、粘り気のある痰が少量出るものの切れにくいといった症状にも効果が期待できます。

粘り気の強い黄色の痰が絡むなら「清肺湯(せいはいとう)」

清肺湯は、肺の潤い不足に加えて、気道に熱がこもって炎症が起きている状態に用いられます。
痰の色が黄色や緑色で粘り気が強く、切れにくい咳が続く場合に適しています。
この漢方薬は、肺の熱を冷まして炎症を鎮める「清肺」作用と、痰を排出しやすくする作用があり、しつこい痰の絡む咳を改善します。

食事で内側から肺を潤す!今日からできる薬膳の取り入れ方

肺の潤いを保つためには、漢方薬だけでなく日々の食事も重要です。
薬膳の考え方を取り入れることで、体の内側から乾燥を防ぎ、肺の機能をサポートすることができます。
毎日の食卓に、肺を潤す食材を意識的にプラスしてみましょう。

積極的に摂りたい「白い食材」で潤いを補給する

薬膳の基本となる五行説では、「白」は「肺」に対応する色とされています。
そのため、白い色の食材には肺を潤し、乾燥から守る働きを持つものが多くあります。
具体的には、梨、れんこん、白きくらげ、山芋、大根、百合根、豆腐などが挙げられます。

これらの食材をスープや和え物などにして日常的に摂取するのがおすすめです。

「甘味」と「酸味」の組み合わせで水分をキープする

薬膳では、「甘味」には潤いを生み出す作用が、「酸味」には体内の水分が外に漏れ出るのを防ぐ収斂(しゅうれん)作用があるとされます。
この2つを組み合わせる「酸甘化陰(さんかんかいん)」という考え方は、効率的に体の潤いを補給するのに役立ちます。
例えば、はちみつレモンや梅とはちみつを合わせたドリンクなどが手軽に取り入れられます。

肺の乾燥を助長する香辛料や辛い食べ物は控える

唐辛子やこしょう、にんにく、ねぎといった香辛料や辛味の強い食べ物は、体を温め発散させる作用が強く、摂りすぎると体内の水分を消耗してしまいます。
肺が乾燥しているときは、これらの刺激物を避けることが大切です。
また、揚げ物や味の濃い料理も体内に熱を生みやすいため、控えるように心掛けましょう。

漢方と合わせて実践したい!肺を乾燥から守る生活習慣

肺陰虚の改善には、漢方薬や食事療法と並行して、日々の生活習慣を見直すことも効果的です。
体の潤いを無駄に消耗せず、肺を健やかに保つためのポイントを意識して過ごしましょう。

加湿器を活用して部屋の湿度を50~60%に保つ

肺は外部の乾燥に弱い臓器なので、特に空気が乾燥しやすい秋や冬、また夏場のエアコン使用時には、加湿器を使って室内の湿度を適切に保つことが重要です。
湿度の目安は50~60%程度です。
就寝時に加湿器を使用することで、睡眠中ののどの乾燥や咳の悪化を防ぐ助けになります。

激しい運動で汗をかきすぎないようにする

適度な運動は健康維持に不可欠ですが、汗を大量にかくような激しい運動は体内の水分(津液)を消耗し、結果的に肺の乾燥を助長することがあります。
肺陰虚の体質の人は、ウォーキングやヨガ、太極拳など、じんわりと汗ばむ程度の穏やかな運動を心掛けるとよいでしょう。

夜更かしを避け、十分な睡眠で体を休ませる

東洋医学では、夜は体を休ませて潤い(陰)を養う時間帯と考えられています。
夜更かしをすると、この「陰」を消耗してしまい、乾燥体質を悪化させる原因になります。
日付が変わる前には就寝し、7時間以上の十分な睡眠時間を確保することで、体の潤いを回復させることが大切です。

肺 陰 虚 漢方に関するよくある質問

ここでは、肺陰虚と漢方薬に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

漢方薬はどのくらいの期間飲み続ければ効果が期待できますか?

体質改善を目的とするため、2週間から1ヶ月ほど継続して服用することで変化を感じ始めることが多いです。
ただし、効果の現れ方には症状の重さや体質による個人差があります。
即効性を求めるものではないため、専門家の指示に従い、焦らずに続けることが重要です。

市販の麦門冬湯を試しましたが効きません。どうすればよいですか?

症状が麦門冬湯の適応と合っていない可能性があります。
例えば、ほてりや寝汗など虚熱の症状が強い場合は、滋陰降火湯など別の漢方薬が適していると考えられます。
自己判断で続けずに、漢方に詳しい医師や薬剤師、登録販売者に相談し、改めて体質に合った漢方薬を選んでもらうことを推奨します。

秋になると咳が悪化しやすいのは肺陰虚が関係していますか?

関係している可能性が高いです。
東洋医学では、秋は乾燥した空気が支配する季節であり、肺に最も影響を与えやすいとされます。
もともと肺陰虚の素因がある人は、この外気の乾燥に影響されやすく、秋になると空咳やのどの不調が悪化する傾向があります。

まとめ

肺陰虚による乾いた咳やのどの乾燥は、肺の潤い不足が根本的な原因です。
改善のためには、肺を潤す作用のある漢方薬を用いると同時に、食事や生活習慣を見直すことが欠かせません。

具体的には、白い食材を積極的に摂り、加湿を心掛け、十分な睡眠をとるなど、総合的なアプローチで体の内側と外側から潤いを補給していく必要があります。

歳森 三千代
(としもり みちよ)
/ 薬剤師

岡山県岡山市にある不妊・妊活専門の漢方相談薬局 福神トシモリ薬局で、漢方と体質改善による妊活支援・身体づくりを専門とする薬剤師。これまで延べ1,300名以上の妊娠相談実績を持つ(全国からの相談対応あり)。 ブログでは「漢方や健康に関する豆知識」「妊活・不妊のお役立ち情報」「体質に合わせた漢方の使い方」など、専門知識に基づく実践的な情報を発信しています。読者の生活に寄り添い、長年の相談実績をもとに分かりやすく解説することを心がけています。
※掲載内容は一般的な情報であり、効果には個人差があるため、効果を必ずしも証するものではありません。