血管運動性鼻炎と漢方薬:原因や症状に合わせた選び方

血管運動性鼻炎と漢方薬:原因や症状に合わせた選び方 漢方

くしゃみや鼻水、鼻づまりといったつらい症状があるにもかかわらず、アレルギー検査では原因が特定できない血管運動性鼻炎は、寒暖差やストレスによる自律神経の乱れが主な原因とされています。

西洋医学的な治療で改善が見られない場合、体質改善を目指す漢方薬が選択肢の一つとなります。この記事では、血管運動性鼻鼻炎の基本的な情報から、症状や体質に合わせた漢方薬の選び方、服用する際の注意点までを詳しく解説します。

はじめに|血管運動性鼻炎の基本を解説

血管運動性鼻炎は、アレルギー性鼻炎と似た症状を示しますが、その原因やメカニズムは異なります。
アレルゲンが特定できないため、一般的なアレルギー治療では効果が出にくいケースも少なくありません。
このような状況において、体のバランスを整えることを目的とする漢方薬が注目されています。

ここでは、血管運動性鼻炎の主な症状や原因、アレルギー性鼻炎との違いを整理し、漢方治療を検討するための基礎知識を解説します。

くしゃみ・鼻水・鼻づまりが主な症状

血管運動性鼻炎の主な症状は、アレルギー性鼻炎と同様に、発作的に起こるくしゃみ、水のようにサラサラとした鼻水、そして鼻づまりです。
特に、朝起きた時や暖かい場所から寒い場所へ移動した時など、急な温度変化によって症状が誘発されやすい特徴があります。

これらの症状は、鼻の粘膜にある血管が自律神経の乱れによって異常に拡張し、血流が増加することで引き起こされます。
アレルゲンが関与していないため、目のかゆみや充血といったアレルギー特有の症状を伴うことは少ないです。
対症療法で改善しない場合、体質から見直す漢方薬のアプローチが有効なことがあります。

原因は寒暖差やストレスによる自律神経の乱れ

血管運動性鼻炎の直接的な原因は、鼻粘膜の血管の収縮・拡張をコントロールしている自律神経の機能が乱れることにあります。
この自律神経の乱れを引き起こす要因は様々で、気温や湿度の急激な変化といった物理的な刺激が代表的です。

その他にも、精神的なストレス、過労、睡眠不足、不規則な生活習慣なども自律神経のバランスを崩す原因となりえます。
また、香水やタバコの煙、アルコールの摂取が症状の引き金になることもあります。
これらの要因は、アレルギー反応とは無関係に鼻の過敏な反応を引き起こします。
そのため、改善においては、自律神経の働きを整える漢方薬が用いられる場合があります。

アレルギー性鼻炎との明確な違い

血管運動性鼻炎とアレルギー性鼻炎は症状が酷似しているため混同されがちですが、根本的な原因が異なります。
最も大きな違いは、アレルギー性鼻炎が花粉やハウスダストといった特定のアレルゲン(抗原)に対する免疫系の過剰反応であるのに対し、血管運動性鼻炎にはそのようなアレルゲンが存在しない点です。

そのため、医療機関での血液検査や皮膚テストを行っても、アレルギー反応は陰性となります。
また、アレルギー性鼻炎では目のかゆみや涙目を伴うことが多いですが、血管運動性鼻炎では鼻症状が中心です。
原因が異なるため、抗アレルギー薬の効果が見られにくい場合は、自律神経に働きかける漢方薬などを検討する必要があります。

血管運動性鼻炎の改善に漢方薬が期待できる理由

血管運動性鼻炎の治療において、西洋医学では症状を抑える対症療法が中心となりますが、漢方薬は異なる視点からアプローチします。
漢方医学では、症状が起きている体そのものに着目し、不調の根本原因である体質の偏りを整えることを目指します。

特に、血管運動性鼻炎の原因とされる自律神経の乱れや、体の冷え、水分の滞りといった問題に対し、体の内側から働きかけることで、症状が出にくい体づくりをサポートする効果が期待されます。

乱れた自律神経の働きを整えるアプローチ

血管運動性鼻炎は、鼻の血管運動を司る自律神経のバランスが崩れることで発症します。
漢方医学では、この自律神経の働きを「気」の流れと捉え、その乱れを整えることを重視します。
例えば、ストレスによって「気」の巡りが滞ると、交感神経が過剰に働き、体の様々な機能に不調をきたします。

漢方薬は、生薬の組み合わせによって気の流れをスムーズにし、心身の緊張を和らげることで、自律神経のバランスを正常な状態に近づけていきます。
このアプローチにより、鼻粘膜の血管の過敏な反応を鎮め、寒暖差などの外部刺激に対する体の抵抗力を高めることを目指すのです。
特定の漢方薬は、このバランス調整に役立ちます。

体質に働きかけ、体の内側から症状を緩和する

漢方治療の大きな特徴は、一人ひとりの体質(証)に合わせて処方を決定する点にあります。
同じ血管運動性鼻炎という診断でも、体が冷えやすい「寒証」の人、体内に余分な水分が溜まりやすい「水滞」の人、ストレスを感じやすい「気滞」の人など、その背景にある体質は様々です。
漢方薬は、これらの個々の体質を見極め、その人に合った漢方薬を選択することで、症状の根本原因に働きかけます。

例えば、体を温める生薬、水分の排出を促す生薬、気の巡りを改善する生薬などを組み合わせることで、体の内側からバランスを整え、症状が出にくい体質へと導いていきます。
これが、対症療法とは異なる漢方薬の考え方です。

【症状・体質別】血管運動性鼻炎に用いられる代表的な漢方薬

血管運動性鼻炎の治療に用いられる漢方薬は、症状や体質によって異なります。
例えば、水のような鼻水が特徴的な場合には、体の水分バランスを整える漢方薬が、冷えが原因の場合には体を温める漢方薬が選ばれます。

代表的な漢方薬には小青竜湯や葛根湯などがありますが、これらが全ての人に有効なわけではありません。
ここでは、具体的な症状や体質に応じてどのような漢方薬が選択されるのか、代表的な例をいくつか紹介します。

水のようなサラサラの鼻水が出る場合の漢方薬

くしゃみと同時に、水のように透明でサラサラした鼻水が大量に出る症状には、小青竜湯が代表的な漢方薬として用いられます。
この処方は、体内に余分な「水」が停滞し、それが冷えによってあふれ出ている状態を改善する働きがあります。

体を温める麻黄や桂皮、乾姜などが含まれており、体の中から温めて発汗を促し、水分の排出を助けます。
また、鼻水を抑える作用も期待できます。
特に、体が冷えやすく、朝方や寒い環境で症状が悪化するタイプの血管運動性鼻炎に適しています。
体力は中等度くらいの人向けの漢方薬です。

体の冷えが強く、くしゃみや鼻水に悩む場合の漢方薬

体の冷え、特に首筋から背中にかけてゾクゾクするような寒気を感じ、くしゃみや鼻水が出る場合には、葛根湯(かっこんとう)が有効なことがあります。
葛根湯は風邪のひきはじめに用いるイメージが強いですが、体を温めて血行を促進し、体表の抵抗力を高める作用があります。

この働きによって、寒冷刺激による鼻粘膜の血管の過剰な反応を抑え、鼻炎症状を緩和します。
体力がある程度あり、肩こりや首のこりを伴う人にも向いています。
冷たい外気に触れるとすぐに鼻の症状が出るような、冷えが明確な引き金となっているタイプの血管運動性鼻炎に対して、葛根湯が選択肢の一つとなります。

鼻づまりがひどく、頭痛を伴う場合の漢方薬

鼻づまりが主症状で、なかなか改善せず、頭が重く感じたり頭痛を伴ったりする場合には、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)という漢方薬が適応となることがあります。
この漢方薬は、体を温めて血行を促進する葛根湯を基本としており、それに加えて鼻の通りを良くする川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)という生薬が配合されています。

これらの生薬が鼻粘膜の腫れや充血を和らげ、頑固な鼻づまりを改善に導きます。
慢性的な鼻炎や副鼻腔炎にも用いられることがあり、血管運動性鼻炎による粘膜のうっ血状態にも効果が期待されます。

精神的なストレスが症状の引き金になる場合の漢方薬

精神的なストレスや緊張、イライラなどが引き金となって鼻炎症状が悪化するタイプには、自律神経のバランスを整え、精神を安定させる作用のある漢方薬が用いられます。
例えば、加味逍遙散(かみしょうようさん)は、体力があまりなく、疲れやすく、イライラや不安感、不眠などの精神神経症状を伴う場合の気の巡りを改善します。
また、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、喉のつかえ感や気分の落ち込みがある場合に適しています。

これらの漢方薬は、直接的に鼻に作用するのではなく、症状の根本原因である心身の乱れを整えることで、結果的に鼻の過敏な反応を和らげることを目的としています。

漢方薬を服用する前に知っておきたい注意点

漢方薬は体質改善に役立つ一方で、医薬品であるため服用には注意が必要です。
天然由来の成分であることから安全なイメージを持つ人もいますが、体質に合わない場合や誤った使い方をした場合には、副作用を引き起こす可能性もあります。

効果的かつ安全に漢方治療を進めるためには、自己判断で選ぶのではなく、専門家のアドバイスを受けることが不可欠です。
ここでは、漢方薬を服用する前に知っておくべき基本的な注意点を解説します。

自己判断せず専門家に体質を診てもらう

漢方薬を選ぶ上で最も重要なのは、その人の体質、つまり「証」に合ったものを選ぶことです。
同じ血管運動性鼻炎でも、冷えが原因の人、ストレスが原因の人、水分の巡りが悪い人では、適した漢方薬が全く異なります。
ドラッグストアなどで手軽に購入できる漢方薬もありますが、自分の「証」を正しく判断するのは非常に難しいです。

誤った選択をすると、効果が出ないばかりか、胃もたれや下痢などの不快な症状を引き起こすこともあります。
漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、問診などを通して自分の体質を正確に把握した上で、最適な漢方薬を選んでもらうことが、改善への確実な一歩となります。

副作用のリスクも正しく理解しておく

漢方薬も医薬品の一種であり、副作用が起こる可能性はゼロではありません。
例えば、多くの漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)を長期にわたって過剰摂取すると、偽アルドステロン症という状態になり、血圧の上昇やむくみ、だるさなどが現れることがあります。

また、体を温める作用のある麻黄(マオウ)を含む漢方薬では、動悸や不眠、胃の不快感などが生じる場合もあります。
その他、体質に合わない漢方薬を服用することで、発疹や食欲不振、下痢といった症状が出る可能性も否定できません。
服用を開始してから体調に変化を感じた場合は、すぐに服用を中止し、処方を受けた医師や薬を選んでもらった薬剤師に相談することが必要です。

漢方薬はどこで手に入る?

漢方薬を入手するには、主に3つの方法があります。
一つ目は、漢方治療を行う医療機関(内科、耳鼻咽喉科、漢方専門外来など)を受診することです。
医師の診察により、健康保険が適用されるエキス剤(粉末や錠剤)の漢方薬が処方されるため、費用負担を抑えられます。

二つ目は、漢方薬局や相談薬局です。
ここでは、専門の薬剤師が時間をかけてカウンセリングを行い、保険適用外の煎じ薬を含め、より個人の体質に細かく合わせた漢方薬を選んでくれます。
三つ目は、ドラッグストアでの購入です。
手軽ですが、選択肢が限られ、専門的なアドバイスを受けにくい側面があります。
自分の目的や症状に合わせて適切な場所を選ぶことが重要です。

まとめ

血管運動性鼻炎は寒暖差やストレスによる自律神経の乱れが原因で起こる鼻炎でありアレルギー性鼻炎とは区別されます。
治療法の一つとして体の内側からバランスを整える漢方薬が有効な場合があります。
水様性の鼻水には小青竜湯、冷えを伴う症状には葛根湯といったように個々の症状や体質に合わせて適切な漢方薬を選択することが重要です。

ただし漢方薬は医薬品であり副作用のリスクも存在します。
自己判断での服用は避け漢方に詳しい医師や薬剤師などの専門家に必ず相談の上、自身の体質に合った薬を選んでもらうようににしてください。

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