酒さ・酒さ様皮膚炎の漢方療法|漢方薬を活用した赤ら顔対策

酒さ・酒さ様皮膚炎の漢方療法|漢方薬を活用した赤ら顔対策 漢方

酒さや酒さ様皮膚炎による赤ら顔は、皮膚科の一般的な治療で改善が見られないことも少なくありません。
そのような場合、体質から見直す漢方治療が選択肢の一つとなります。
漢方医学では、顔の赤みやほてりを体内の不調が肌表面に現れたサインと捉え、根本的な原因にアプローチします。

この記事では、漢方の視点から見た酒さの原因、用いられる漢方薬の種類、そして日常生活での注意点について解説します。
漢方の専門家のもとで、自分に合った改善方法を見つけることが重要です。

酒さとは顔に赤みやブツブツが現れる皮膚の病気

酒さとは、主に顔の中心部、特に鼻や頬、額、あごに慢性的な赤みやほてりが生じる皮膚の病気です。
症状が進行すると、ニキビに似た赤いブツブツ(丘疹)や膿を持ったブツブツ(膿疱)が現れることもありますが、ニキビとは異なり毛穴の詰まり(面皰)は見られません。

また、皮膚表面の毛細血管が拡張して、赤みが持続的に目立つようになるのも特徴の一つです。
重症化すると鼻の皮膚が厚くこぶ状に盛り上がる「鼻瘤(びりゅう)」を形成することもあります。
さらに、症状が目にも及ぶことがあり、目の充血、乾燥、異物感などを伴う「眼型酒さ」と呼ばれる状態になる場合もあります。

酒さを悪化させてしまう日常生活の要因

酒さの症状は、日常生活における様々な要因によって悪化することが知られています。
特に注意したいのが紫外線で、日光を浴びることで炎症が強まり、赤みが増す傾向があります。
また、熱い食べ物や飲み物、香辛料の効いた食事、アルコールの摂取は、血管を拡張させてほてりや赤みを引き起こすため、避けるべき要因とされています。
サウナや長風呂などの急激な温度変化も同様に症状を悪化させる可能性があります。

精神的なストレスや緊張、不安なども自律神経のバランスを乱し、症状の増悪につながることがあります。
さらに、不適切なスキンケア、例えば洗浄力の強いクレンジングやスクラブ入りの洗顔料の使用は、皮膚への刺激となり炎症を助長するため注意が必要です。

漢方で考える酒さの原因は体内のアンバランス

漢方医学では、酒さの症状を皮膚だけの問題とは考えません。
身体全体のバランスが崩れた結果として、顔に赤みや炎症が現れると捉えます。
特に、体内にこもった余分な「熱」、血の巡りが悪くなる「瘀血(おけつ)」、そしてストレスなどによる「気」の乱れが、酒さの主な原因とされています。

これらの要因が複雑に絡み合い、一人ひとりの体質や症状となって現れるため、治療ではその人の「証(しょう)」を見極め、根本的な体質改善を目指すことが重要になります。

体内にこもった「熱」が顔の赤みを引き起こす

漢方でいう「熱」とは、体温計で測れる体温だけでなく、体内で生じる過剰なエネルギーや炎症反応全般を指す概念です。
特に、ストレスや不規則な食生活、アルコールの過剰摂取などによって体内に「熱」がこもりやすくなります。
この熱が上半身、特に顔に集中すると、酒さ特有の赤み、ほてり、炎症を引き起こすと考えられています。
このような状態は、足元は冷えるのに顔や上半身はのぼせやすい「上熱下寒(じょうねつげかん)」とも呼ばれます。

漢方治療では、このこもった熱を冷ます「清熱(せいねつ)」というアプローチで、肌の炎症を鎮めていきます。
熱を生み出す原因となる生活習慣の見直しも、症状の改善には不可欠です。

血の巡りが滞る「瘀血(おけつ)」の状態が肌に影響する

瘀血(おけつ)とは、漢方医学における特有の概念で、血(けつ)の流れが滞り、スムーズに循環しなくなった状態を指します。
瘀血の状態になると、全身の細胞に十分な栄養や酸素が行き渡らず、老廃物の排出も滞りがちになります。
これが皮膚に影響すると、新陳代謝が低下して肌のターンオーバーが乱れ、シミやニキビ跡が治りにくくなる原因となります。

酒さにおいては、毛細血管の拡張や赤紫色のくすんだような赤みとして現れることがあります。
血行不良は慢性的な炎症を長引かせる要因ともなり、漢方では血の巡りを改善する「駆瘀血剤(くおけつざい)」を用いて、皮膚の状態を正常に整えることを目指します。

ストレスや冷えによる自律神経の乱れも関係する

精神的なストレスや身体の冷えは、自律神経のバランスを乱す大きな要因です。
漢方では、この自律神経の働きを「気」の巡りと関連付けて考えます。
ストレスなどによって「気」の流れが滞ると、体内の熱のバランスが崩れ、顔や上半身に熱がこもりやすくなります。
これが、酒さのほてりや赤みの直接的な引き金となることがあります。

また、気の滞りは血の巡りにも影響し、「瘀血(おけつ)」の状態を招くこともあります。
自律神経は血管の収縮や拡張をコントロールしているため、そのバランスが崩れること自体が、顔の血管が拡張しやすくなる原因となります。
そのため、漢方治療では気の巡りを整えることで、自律神経の働きを正常化し、症状の改善を図ります。

酒さの症状改善に用いられる代表的な漢方薬

酒さの治療に用いられる漢方薬は、症状や体質によって多岐にわたります。
漢方では、その人の体力、症状の現れ方、体質などを総合的に判断する「証(しょう)」に基づいて、最適な漢方薬が選択されます。
したがって、同じ酒さといっても、選ばれる漢方薬は一人ひとり異なります。

これから紹介する漢方薬はあくまで代表的な例であり、自己判断での服用は避け、必ず漢方に詳しい医師や薬剤師に相談の上で、自分に合ったものを選ぶことが重要です。

肌の炎症や赤みを鎮める効果が期待できる漢方薬

顔の赤みやほてり、化膿したブツブツなど、炎症が強く出ているタイプの酒さには、体内にこもった熱を冷ます「清熱作用」を持つ漢方薬が用いられます。
代表的な漢方薬には、比較的体力があり、のぼせやイライラを伴う場合に適した「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」があります。
この漢方薬は、強い清熱作用で炎症を鎮める効果が期待されます。

また、ニキビのような化膿性の皮疹が目立つ場合には、炎症を抑えながら膿を排出する働きのある「清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)」が選択されることがあります。
これらの漢方薬は、主に体質が比較的しっかりしている「実証」タイプの人向けで、体内の過剰な熱を取り除くことを目的としています。

体内の余分な熱や水分を排出する漢方薬

漢方では、体内の水分の巡りが悪化する「水滞」も、皮膚の炎症を引き起こす一因と考えます。
余分な水分が熱と結びつくと、むくみを伴う赤みや、じくじくとした滲出液を伴う皮疹の原因となることがあります。

このような状態には、体内の水分バランスを整えながら熱を冷ます漢方薬が適しています。
例えば、「越婢加朮湯」は、体にこもった熱を発散させながら、余分な水分の排出を促す作用があり、赤みが強くむくみ感がある場合に用いられます。
また、「十味敗毒湯」は、化膿しやすい皮膚疾患に広く使われる漢方薬で、炎症を抑え、余分な水分を排出するのを助けます。

血行を促進して肌の状態を整える漢方薬

血行不良の状態である「瘀血(おけつ)」が原因で、赤みが長引いたり、皮膚が暗紫色になったりしている場合には、血の巡りを改善する漢方薬が用いられます。
これらの「駆瘀血剤(くおけつざい)」は、皮膚の新陳代謝を促し、滞った血液の流れをスムーズにすることで、肌の状態を整えます。

代表的な漢方薬として「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」があり、比較的体力がある人で、のぼせや足の冷えを伴う場合に適しています。
一方、体力がなく、冷え性で疲れやすい「虚証」タイプの人には、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が用いられることがあります。
これらの漢方薬は、特に月経周期に伴って症状が悪化する女性の酒さの改善にも応用されます。

漢方薬は専門家に相談するのがおすすめ

漢方薬は、市販でも手に入りますが、酒さの改善で用いる場合は自己判断で選ぶべきではありません。
漢方療法の基本は、個々の体質や症状に合わせた「証」を見極めて漢方薬を決めることであり、専門的な知識が不可欠です。
体質に合わない漢方薬を服用すると、効果が得られないばかりか、副作用や症状の悪化を招く可能性もあります。

安全かつ効果的に治療を進めるためにも、まずは漢方に詳しい専門家(医師、薬剤師、登録販売者など)に相談することが推奨されます。

漢方薬とあわせて見直したい食生活のポイント

漢方療法の効果を最大限に引き出すためには、日々の食生活を見直すことも非常に重要です。
漢方の考え方では、食べ物にも体を温める性質(温性)と冷やす性質(寒性)があるとされます。
酒さの多くは体内に「熱」がこもっている状態のため、香辛料、脂っこい食事、アルコール、チョコレートといった、熱を生み出しやすい食べ物は控えるのが基本です。

一方で、きゅうりや冬瓜、豆腐などの体を穏やかに冷ます食材を適度に取り入れることが推奨されます。
また、冷たい飲み物や生野菜の摂りすぎは、胃腸を冷やして消化機能を低下させ、結果的に体全体の巡りを悪くする可能性があるため注意が必要です。
バランスの取れた食事を基本とし、自分の体質に合った食材を選ぶことが、内側からの体質改善につながります。

まとめ

酒さおよび酒さ様皮膚炎は、西洋医学的な治療だけでは改善が難しい場合があり、漢方療法は体質から見直すことで根本的な改善を目指す有効な選択肢です。
漢方では、顔の赤みや炎症を体内の「熱」や「瘀血(おけつ)」、自律神経の乱れなどが原因と捉え、個々の「証」に合わせた漢方薬を選びます。

漢方薬の選択には専門的な知識が必要なため、自己判断での服用は避け、漢方に精通した専門家に相談することが重要です。
適切な漢方薬の選択とともに、食生活や生活習慣を見直すことで、改善効果を高めることが期待できます。
症状に悩んでいる場合は、一度専門家に相談してみることを検討してください。

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