不妊症の原因は多種多様

不妊症の原因は多種多様 妊活・不妊

不妊症は、妊娠に至るまでのプロセスになんらかの問題が生じていることが原因です。
日本産科婦人科学会では、「妊娠を希望して1年間性生活を行っているにも関わらず妊娠しない状態」を「不妊症」と定義しています。

妊娠は男女のどちらか一方だけで成り立つものではありませんから、不妊の原因もまた、男女のどちらかだけにあるとは言い切れません。

不妊治療を考えている場合、不妊の原因を理解し、原因に即した治療法を進めていきましょう。
今回は、女性不妊と男性不妊、双方の原因についてご説明します。

女性不妊の原因

夫婦の会話妊娠は、卵子が精子と出会って受精し、その受精卵が卵管を通って子宮内で着床することで成立します。
これらの一連の流れのなかで、なんらかの問題が発生した場合、妊娠は難しくなります。

しかしそれ以前に、卵子がきちんと排卵されていなければ、精子と出会って受精卵となることができません。
女性不妊の原因は非常に複雑で、ときには複数の原因が絡み合っていることもあります。

ここからは、いっしょに不妊症の原因を探っていきましょう。

女性不妊の原因の約3割を占める「卵管障害」

卵管は卵巣から飛び出す卵子をキャッチして、子宮まで卵子を運ぶ役割を持っています。
そして、卵子と精子が出会う場であり、受精卵の通り道でもあります。
卵管が狭まっていたり、詰まっていたりするなどの通過障害が生じることで、受精卵が通れなくなって不妊の原因となります。

卵管通過障害は不妊症の原因の約3割を占めると言われていて、近年はクラミジア感染による卵管障害が増加しています。
クラミジア感染症を発症すると、男性においては排尿痛などの症状によって発見できることがありますが、女性にはほとんど症状が現れないとされています。

感染に気づかず治療しないでいると、炎症は子宮頸管炎から子宮内膜炎、卵管炎と徐々に広がっていき、卵管閉塞を引き起こしてしまう場合もあります。
クラミジア感染症によって卵管が閉塞してしまった場合、適応される不妊治療は体外受精です。
ほかにも、卵管炎や卵管留水腫、子宮内膜症により卵管癒着が起きたことで、排卵障害を生じる場合もあります。

また、卵子を卵管に取り込むための卵管采(らんかんさい)が、卵子をうまくキャッチできない状態になっていることを「ピックアップ障害」と呼び、卵子が卵管内に入れないため、受精に至ることができず、不妊の原因となります。

卵管にトラブルが発生しやすい理由としては、女性の生殖器の中でも特に粘膜が薄いことが挙げられます。
性感染症により炎症を起こしやすく、これらの後遺症として癒着や閉塞を招いてしまうのです。
また、受精卵が誤って卵管に着床した場合、子宮外妊娠を引き起こす可能性があります。

月経や排卵に影響する「卵巣機能不全」

「卵巣機能不全」は「卵巣機能低下症」とも言われ、卵巣が分泌するホルモンバランスの乱れが、月経異常や排卵障害を引き起こしている状態を指します。

卵巣は子宮の左右両側にある器官で、月経や妊娠には欠かすことのできない大切な器官です。
ところが私たちの身体機能は、年齢とともに、徐々に衰えます。
卵巣の機能も、老化とともに低下していきます。

卵巣の機能が低下すると、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲン・プロゲステロンの分泌量が減少します。

エストロゲン、プロゲステロンには以下のような働きがあります。

エストロゲン(卵胞ホルモン)
・卵胞を成熟させたり、女性らしい身体づくりを手助けする。
・子宮頚管粘液の分泌量を増やし、精子が通過しやすいようサポートする。

プロゲステロン(黄体ホルモン)
・子宮内膜を厚くして、受精卵が着床しやすい環境を整える。

このため卵巣機能が低下し、ホルモンの分泌が不十分な状態だと、排卵が起こっても、受精や着床がうまくできない、ということが起こり得ます。
卵巣機能の低下を招く原因は、多くの場合ストレスです。

エストロゲン・プロゲステロンは、脳の視床下部から下垂体、卵巣へと指令が伝わることで分泌されます。
このとき司令塔となっている視床下部は、同時に自律神経も司っています。

自律神経がストレスにより乱れることで、ホルモンバランスにも影響が及び、月経に異常をきたしてしまうのです。
卵巣機能不全は、老化だけではなく、子宮内膜症によっても引き起こされます。

子宮の内側以外で妊娠の準備が進められてしまう「子宮内膜症」

「子宮内膜症」とは、子宮内膜以外のところに子宮内膜ができてしまう病気です。
月経のある女性の約0.5〜5%に子宮内膜症が存在するのに対して、不妊症の場合では25〜50%に子宮内膜症が存在するといわれています。

そもそも子宮内膜というのはその名の通り、子宮の内側で育てられる「膜」のことを指しています。
プロゲステロンの作用によって子宮内膜がふかふかになり、受精卵を着床しやすくなるよう準備が進みます。
妊娠に至らなかった場合には、この子宮内膜が剥がれ落ち、月経となります。

子宮内膜が子宮の内側以外の、卵巣や卵管、あるいは子宮の外にできることがあります。
この場合にも、通常と同じように子宮内膜は厚くなり、剥がれ落ちることで出血に至ります。

子宮の内側以外にできた子宮内膜の発育、剥離が何度も繰り返されることで、炎症が起こったり、癒着が起きるなどして、ひどい場合には臓器が変形することもあります。
炎症はプロスタグランジンという、強い痛みの原因となる物質の分泌量を増加させます。

また、直腸と子宮の間に子宮内膜症が生じた場合、性交痛や排便痛を伴うこともあります。
子宮内膜が卵巣にできた場合には、毎月の出血で生じた血液が徐々に卵巣内に溜まります。
溜まった血液が古くなると、茶色くドロドロとしたチョコレートのようになることから、「卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)」と呼ばれています。

卵巣チョコレート嚢胞が生じることで、卵巣内で卵子が育ちにくくなったり、卵管の働きが抑制されてしまうことから、不妊の原因ともなります。
子宮内膜症によって妊娠が妨げられていると判断された場合、適応される不妊治療は手術、そして体外受精となります。

一方で、子宮内膜症と診断された場合にも、自然妊娠の可能性は十分に考えられます。
子宮内膜症の程度が軽度のものであれば、まずはタイミング療法によって自然妊娠を目指すことが可能です。

できた場所によって不妊症の原因となる「子宮筋腫」

子宮は、平滑筋という筋肉でできています。
妊娠すると子宮が大きくなったり、陣痛が起こるのも、この筋肉が伸縮するためです。

子宮筋腫とは、平滑筋の細胞が異常に増殖して出来た腫瘍を指します。
腫瘍と言っても、子宮筋腫そのものは良性であるため、命を脅かすものではありません。
しかし、筋腫ができた場所やその大きさによっては、さまざまな症状の原因となります。

子宮筋腫ができやすい場所は主に3箇所あり、それぞれ漿膜(しょうまく)下、筋層内、粘膜下が該当する場所です。
子宮筋腫のもっとも代表的な症状は、月経量の増加と月経痛です。

一方で、漿膜(しょうまく)という、子宮の外側を覆う膜に筋腫が出来た場合、大きくなるまで何も症状が現れないということも、少なくありません。
粘膜下という子宮の内側、あるいは子宮の筋肉内に筋腫が出来た場合、筋腫の大きさによっては不正出血や不妊症となり得ます。

子宮は非常にデリケートな器官です。
子宮筋腫が大きく、子宮内膜を広い範囲で圧迫している場合には、手術によって筋腫を取り除いたとしても、内膜が元通りに修復できない可能性もあります。

子宮筋腫が妊娠を妨げているかどうかは、子宮卵管造影検査やMRI検査によって判断されます。
ところが、検査を行っても明確に判断できないことも多く、その場合は不妊治療を行ってみて、妊娠できるかどうかで判断することになります。

排卵障害の原因として最多の「多嚢胞性卵巣症候群」

「多嚢胞性卵巣(PCO)」に肥満、多毛などの症状が加わったものを「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と呼びます。

卵子を排出するための卵胞は、卵巣内で成熟します。
成熟の過程で大きくなった卵胞は、約2cmくらいの大きさになると破裂して、卵子が排卵されます。

多嚢胞性卵巣症候群とは、卵胞が卵巣の中に出来るものの破裂まで至らず、たくさんの卵胞が卵巣の壁にくっついて厚くなってしまう状態を指します。
多嚢胞性卵巣および多嚢胞性卵巣症候群は、排卵障害の原因のなかでもっとも多いとされています。

男性不妊の原因

会話する夫婦男性側に妊娠を妨げているなんらかの問題があると考えられる場合を、「男性不妊」と言います。
男性不妊の原因には、先天性と後天性のものがあります。

先天性の男性不妊の場合、体質や遺伝的要因、発育の過程で受けた影響などによる「性機能不全」が不妊の原因だと考えられます。
「性機能不全」とは、勃起障害や射精困難の症状が見受けられる場合を指します。

一方で後天性の男性不妊の場合、ストレスや過労、睡眠不足、過度の飲酒や喫煙、偏った食生活などの生活習慣が原因となっている場合や、精巣に機能障害が生じていることが原因として考えられます。

男性不妊の原因として最多の「造精機能障害」

男性不妊の原因の約9割を占めているのが、「造精機能障害」です。
精巣の異常などにより、精子を生成する機能に問題が生じているため、造精がうまく行われない状態を指します。

一回の射精のうち、精液に含まれる精子の数は数億にも及ぶと言われています。
その数億の精子も、子宮以前で99%は死滅します。
子宮に到達する頃には数十万、また卵子の周囲まで到達することができるのはわずか数百まで減少するとされています。

よって精子の数が少なかったり、精子の運動率が乏しい場合、卵管まで到達することができないため、不妊症の原因となります。
「造精機能障害」は以下の症状に分類されます。

・精子無力症
精子の数は正常と認められるが、精子の運動率が乏しい状態です。
精子の状態によって、人工授精や顕微授精などの不妊治療を進めます。

・乏精子症
精液の中に精子は存在しているが、数が少ないという症状です。
精子の数が基準を少し下回る程度であれば、タイミング法などで自然妊娠することが可能です。
基準を大きく下回る場合には、人工授精や体外受精、顕微授精などの不妊治療が行われます。

・無精子症
精液中に精子が全く存在しない状態で、造精機能障害の中でも重い症状です。
精巣などに精子自体が存在している場合は、顕微授精などの不妊治療を行うことで受精・妊娠が可能です。

卵子の質の低下や精子無力症を引き起こす原因

西洋医学の視点では、不妊の原因となる病気が認められない、という場合もあります。
東洋医学の視点では、ストレスや冷えなどが原因で身体の機能そのものが低下していることで、不妊症を引き起こしているのではないかと考えます。

現代で不妊症にお悩みの方に共通しているのは、「夜遅い時間に寝ている方が多い」ということです。

夜の10時から2時のあいだは、体内のホルモンが活発に働いている時間帯です。
そのため、夜の11時には熟睡している状態が好ましいのですが、仕事などで毎日遅い時間に就寝している方がたくさんいらっしゃいます。

また、食事を抜いたり、過労やストレス、身体の冷えを慢性的に抱えているといったこともホルモンバランスに影響を与え、月経不順など、身体機能の低下を招く要因となります。
身体機能の低下はすなわち、卵巣機能の低下や造精機能の低下を意味します。

卵巣の機能低下が進むと、卵巣の中で形成される卵胞、そして排卵されたあとの卵子の力も衰えていきます。
卵子の質が低下すると、受精や着床に至りにくく、また、染色体異常がたくさん発生する可能性もあります。

卵子の質は、ホルモン剤を飲めば良くなるということではありません。

男性の場合も同様に、精子の数や運動率には生活習慣が大きく関係しています。
交代制シフトに従事する男性の精子の運動率を計測してみると、日中勤務のときには50パーセント以上あったにも関わらず、深夜勤務が続いたときにはわずか15パーセントだった、という例もあります。

漢方薬などで、身体の機能を回復させる必要があります。

パートナーとふたりで、不妊症に向き合いましょう

散歩する夫婦妊娠を妨げている原因を探るための不妊検査を行っても、「不妊の原因は○○だ」と100パーセント断言することはできません。
あくまでも、「不妊の原因は ○○である可能性が高い」という判断になります。

なかには原因がひとつではなく、複数の要因が混在している場合もあります。
不妊症それぞれの原因に応じた治療方法が存在しますが、原因が明確でないがゆえに治療法が確立されていない場合があることも、また事実です。

妊娠は男女のどちらかだけで成立するものではありません。
そして、不妊症もまた、おふたりのどちらかだけに原因があるとは言い切れません。

不妊症の原因は、人それぞれ異なります。
それはつまり、不妊にお悩みのご夫婦、パートナーの数だけ、不妊症の治療方法は存在するということです。

そして、不妊症の原因がいかなるものであっても、パートナーの身体の状態を労わり、癒すことが大切です。
妊娠にむけて、ふたりで手を取り合いながら、不妊症と向き合いましょう。

歳森 和明 / 薬剤師 - 国際中医専門員A級

薬剤師、国際中医師、笑顔セミナー認定講師。漢方薬局三代目。おだやかで大人しく見られがちですが、サーフィン、ダイビング、トライアスロンなど身体を動かすことや、食べ歩き・旅行が大好きなアクティブ人間です。SNS(Twitter、Facebook)で漢方や健康情報、勉強会情報を随時発信しています。